目指せGI!セイゼイガンバル号(ここで手作りのウチワを振る)
お好み焼きごはん
1
え?セイゼイガンバル号?
「ブッハ、なんだその名前!」
日課のTwitter深夜監視をしていると、バカみたいな名前の馬が目に入った。
号までが名前なのかと思いきや。
セイゼイガンバル、の所だけが名前らしい。
茶色い毛とクリッとした目が可愛い馬で、競走馬なんだそうだ。
競馬って競って勝たなきゃならないのに……
セイゼイガンバルとは、いかにもやる気がない。
俺は何だかツボに入って笑った。
セイゼイガンバル、なんて。
付けた奴はどうせ強くならないと思ってるって事だろ?
お前、期待されてないんだな。
そう思った。
その日は眠くなるまで変な名前の馬を調べて、寝た。
寝違えてキモイ朝が来て、俺は会社に行く。
「あのさ〜、もう2年目だよね?もうちょっとさ〜……わかる?ていうか、キミ、暗いんだよね」
「は、はは……すみません」
「まぁ、良いよ。どうせ変わんないんだから」
解放されて、席に座る。
歯ぎしりが止まらない。
俺が暗いのは、お前に関係ないだろうが!何が悪い!
そう叫んで、ピッカピカの頭をはっ叩いてやりたい気持ちに駆られた。
ていうか、実際夢の中でやった。
だけど思って、夢に見るだけ。
現状は何一つとして変わらない。
というか、変わった試しがない。
小学生の時、読んでた漫画を取られた
中学生の時、成績が低くて笑われた
高校生の時……
思い出せばキリがない。
バカにされても、俺は言い返すことも、努力して見返す事もしなかった。
ふと、昨日の夜のことを思い出す。
艶やかな茶色い体毛と、小さな身体。
そして、クリッとした大きな黒い目。
セイゼイガンバル。
奴のことを思い出した。
トイレに入ってスマホを開く。
セイゼイガンバルで検索をかけた。
すると、競走馬について纏めているサイトを見つける。
セイゼイガンバル 牡2……牡2?なんだそれ…
父 ゼンソルジャー
母 セイゼイヤルゼ
……セイゼイヤルゼ!?
え、コイツお母さんの名前セイゼイヤルゼなのか!?何だその名前!?
てか、そうなってくると……
セイゼイガンバルって、お母さんに因んで付けられたってことか……
あ、タップするとお母さんの詳細見られるな
……お母さん、黒くね?
え、お母さん黒いよな。
セイゼイガンバルまっ茶色だぞ
ああ、お父さんが茶色いのか。
……血統?
血統って、青き血みたいなことだよな?
うわめっちゃ出てきた。
こ、こんなに情報いるもんなのか……?
もしかして、競馬ってお父さんお母さんが、結構重要なのか?
でも走るのは本人……本馬?だよな……?
お父さん栗毛って書いてあるけど、これ茶色の別名か?
お母さんなんだ……黒鹿毛(くろしかげ)?やべぇ読めねえ
おっ競走成績って、走った成績だよな。これは分かる。
あ、まだ二回しか走ってねえんだ。
次どこ走るんだ?
……お、結構近いじゃん
いや、片道三時間くらいかかるけど。
……有給取れば行けなくもないな
「いやいや、ないわー」
そう小さく呟いて、俺はスマホの画面を消した。
何考えてんだ。
馬の為に有給使って、三時間電車に揺られるなんて。
俺は頭を振りかぶってトイレから出ようとして──止めた
「マジやべえ!」
「いやでもマジほんとなんだって!」
声的に、男が二人いる。
この声は、同じ名前が他部署にいるだけなのに呼び名を変えられてる!
田中(男)と高橋(男)!
ゴリゴリの陽キャで、俺とは対極に位置する二人だ。
「てかさ〜、あれ、アイツ。なんだっけ、髪ボッサボサで毎日怒られてる奴」
「あ〜アイツね。いつも目ぇ合わせないで、下向いてボソボソ言ってる」
俺じゃん
髪ボッサボサで毎日怒られてて、目合わせないで下向いてる奴、俺じゃん
いやでも、そうとは限らな──
「アイツさ、ぜってぇ高嶺さんのこと好きだよね」
「あーね、ぜってえ好きだよな。わかり易すぎ」
俺じゃん
高嶺さんが好きなのモロわかりな男って、俺じゃん
「アイツまじで下心丸出しすぎてキッッメエの!マジちょっとは隠せよな」
俺じゃん……!!
高嶺景子さんへの下心が隠しきれてない奴なんて、俺じゃん……!!
でもそんなに言わなくてもさぁ……!
「そんなに言ってやるなよ。お前だって好きな人の前だとドキマギしちゃうだろ」
「確かにそうだな……わりい、嫌なこと言って」
「いいんだよ」
反省すんのかよ……
というか、出られない。
出たら、この二人と鉢合わせすることになる。
さっき俺の話をしていたから気まずい。
それだけじゃない。
俺が、人が苦手だから嫌なんだ。
ずっとそうだった。
相手がなんて考えてるか、気になってしまう。
目線が怖くて、目を合わせられない。
コミュ障の陰キャ。それが俺だ。
そんな見るからにキモイ俺にも優しくしてくれたのが、高嶺さんだった。
俺は高嶺さんが好きだ。
「そういやさ、高嶺さん彼氏いるらしーわ」
「え、マジ?」
「マジ、すっげえ〜イケメン。」
────えっ?
それからの俺の記憶は無い。
気づけば家だったし、スマホでチケットを買っていた。
電車の優先席のチケットが、今手元のスマホにある。
俺は行く。絶対に行く。
何に行くって、競馬場である。
俺はセイゼイガンバルが走る姿を見る。絶対にだ。
それで馬券を買って、なんか、ウッハウハになってやる。
ウッハウハになってやる
くそ!!ぜってえ儲けてやるからな!!
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