本の虫
岩山角三
本の虫
一般に“本の虫”って、読書にのめり込んでる人、みたいな意味じゃないですか。
ところがね、
今回お話しする“本の虫”というのは、半分そうで、半分違うんです。
書店に行くとよく目にする光景なんですが。
人間のふりをして、虫が読書してる。人間サイズのでっかい虫。種類は様々で、蝶々もいれば、蟷螂や甲虫だっているし、蜂や蜘蛛なんかもいる。ページをめくる指と、時折ピクピク動く触角を除けば、微動だにせず、ただ突っ立って手元の、開いた本の紙面を見つめている。こんなのに出くわしたら皆さん発狂してしまう、と思うでしょう?ところが、彼らは人間に気付かれない。違和感と存在感を
でも最初に現われ始めた頃の彼らは、文字の読み方に理解があるようには見えなかったんです。蝶は漫画を引っ張りだし、ただカラフルな表紙をじっと見つめているだけでしたし、蟷螂はレシピ本をめくっては、おいしそうな肉料理のページを見つけて覗き込んでいましたし。カブトムシやクワガタの雄共にいたっては、彼ら虫の中でも特に性欲が強いからか、ビキニや下着を身につけたグラビアアイドルの写真に釘付けでしたし。
それがいつの間にか、今では字まで読んでいる。最初は比較的賢い虫の蜂や蜘蛛なんかが書店に現れ、建築系のテキストを読み始めた。彼らの行動に他の虫も感化されたようで、蝶は恋愛小説を、蟷螂はミステリーを読むようになった。相変わらずスケベなカブト・クワガタ連中でさえ、雑誌だけでなく官能小説にも手を出している。文字の羅列を見ているだけじゃない。近づいてよく聞くと、音読してる。かすれた小さい声で、ぎこちないカタゴトで。人間の真似をしてるんです。
彼らはそのうち、人間に混ざって働くようになるかもしれません。立ち読みばっかりじゃなく、お金で本を買いたいでしょうから。
本の虫 岩山角三 @pipopopipo777
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