第37話 そして私は不死になった 5

「逃げろー!!」

 カーヤは来た方向へ引き返すため海蝕洞かいしょくどうから抜けようとする。

「待って!」

 とっさにナスカがカーヤの腕を掴む。

「多分まだこっちに気づいていない!今出ていったら気づかれて攻撃される⋯!」

 耳元でそう言われたカーヤは落ち着きを取り戻した。


 大きな物を振るような音が外から聞こえる。

 おそらく空から地上に降りている最中なのだろう。


 ドーーーン!!


 隕石が落ちたような音が海蝕洞内に響き渡った。

「うわあ!!」

 2人は同時に叫ぶ。

 後ろの洞口から巨大な眼が覗いていたのだ。

 子供の匂いを嗅ぎつけたのだろう。

「ナスカ逃げよう!」

 入ってきた洞口からカーヤはナスカを連れ、全速力で出る。

 だがカーヤは子供ドラゴンの死骸を片手にぶら下げたままだ。

「バカ!!それは置いていきなさいよ!!なおさら狙われるって!!!」

「嫌だ!これは学所の皆に見せて自慢するんだ!」

 カーヤはよく分からない理由かつ状況で駄々をこねはじめた。

「アンタ名誉と命じゃ名誉が大事なの!!?」

カーヤの頑固なところだけは嫌いだったナスカは、この状況下でも駄々をこねられたことに激怒し、カーヤの持っていたドラゴンの子供を掴む。

何故コイツはこんなにも馬鹿なのだろうかと、ナスカはパニックになりながら思った。

 この期に及んで、小さな幼児がお気に入りのぬいぐるみを取り合うような状況になりかけた時──────

なにやら後ろからボウボウと、浜辺でで暮らしている人間には聞き馴染みがない音が聞こえてきたではないか。

 ナスカは後ろを振り向く。

 海蝕洞の向こうからドラゴンが口内に炎を溜めている。

 ────火球を吐く気だ。

 ナスカは瞬間的に思ったが、案の定だった。


 火球は海蝕洞内で燃え広がる。

 海蝕洞の穴が小さくてよかった、と、ナスカは思った。

 もう少し大きかったとしたら火球が海蝕洞を通り抜け、2人のところまで届いていただろう。

ドラゴンの子供から手を離すナスカ。

「いいから走るぞナスカ!」

だがナスカには物を掴む気力はもちろん、走る気力さえも無かった。


 火球が海蝕洞の内部に当たった際、衝撃で弾け飛んだ岩の破片がナイフのように、ちょうど振り返っていたナスカの脇腹に刺さり込んでいたのだ。

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