第85話 感想と装備の見直し(1)
「試してみた感想はどうだった?」
ダンジョンへの挑戦を終え、家に戻って落ち着いたところで美冬ちゃんへと問い掛ける。
結局、今日のお試しは第2階層で終わらずに、第3階層まで足を伸ばすことになった。
「そうですね。思っていたよりも簡単に感じました。ただ、ゾンビはもう相手にしたくないですが」
座布団に座り、麦茶を手にした美冬ちゃんから返事が返ってくる。
既に装備は外しているし、なんなら軽くシャワーを浴びて汗も流し終えた後なので、かなりラフな格好になっている。
「まあ、ゾンビについては俺も同感かな。でも、先に進むにはアレを相手にしないといけないんだよ……。しかも、あいつらは第3階層だけじゃなく、第4階層の迷宮エリアにもいるからね」
「2階層続けて出るんですか……。ん?というか、達樹さんは第4階層の迷宮エリアに入ったんですか?」
「えっ、あ、まあ、様子見としてね。とりあえず、強さ的には第3階層にいたのと大差なかったよ。どちらかというと、迷宮エリアの通路の狭さのほうが問題になるかもしれないね」
「いや、何を考えているんですかっ!迷宮エリアに1人で入るなんて危険すぎますっ!」
「い、いや、本当に様子見だけだったから」
予想外に強い美冬ちゃんからの非難に、ついつい第4階層では様子見しかしていないと返してしまった。
この様子だと、行き止まりだったとはいえ、迷宮エリアの先まで到達したことは黙っていたほうが良さそうだ。
「たとえ、様子見であっても1人で入るのはあり得ませんっ!」
「いや、でも、迷宮エリアでも日をまたぎさえしなければ、マッピングだって有効だし、時間さえ気を付けて入ればそこまで危険ではないよ」
これに関しては、本当のことだ。確かに、俺自身も試しに入ってみるまでは、迷宮エリアを過剰に危険視していたが、実際に入ってみるとそこまで危険はなさそうだと思うようになっている。
まあ、ソロだとマッピングが手間だし、万が一マッピングを失敗していた場合に面倒なことになりかねないから、楽観視しすぎるのも問題だとは思うが。
その後も怒りが収まらない美冬ちゃんに対し、ソロで迷宮エリアに入らないことを約束することでどうにか許してもらえた。
「はぁ、私はなぜまだ会社を辞められていないのでしょうか」
夕食後、家に帰るという段階になって、美冬ちゃんが憂鬱そうにそんなことをつぶやく。
明日は普通に平日なので、未だに会社をやめることができていない彼女は翌日の朝から出社しないといけない。だからこその嘆きなのだろうが、あいにくと俺にしてあげられることはない。
「でも、もうすぐ辞められるんでしょ?だったら、あと少しの間だけ頑張ってみなよ」
「他人事だと思って……。達樹さんはいいですよね、希望通りにすぐに辞めることができたんですから」
「ハハハ」
一応、何か言葉をかけるべきかと思って口にしてみたものの、気持ちがこもっていないことが完全に見透かされてしまっている。
とはいえ、あっさり辞めることができるというのも、それはそれで微妙だと思う。あれはあれで、自分が必要とされていなかったのではないかと思ってしまうから。
まあ、これに関しては、ないものねだりというか、隣の芝生は、ということなんだろうが。
そんなことを考えつつ、愚痴をこぼしながら渋々帰っていく美冬ちゃんを見送ることになった。
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