第70話 ダンジョンの封鎖解除と慣らし(1)

「お忙しいところをわざわざすいません。今日はよろしくお願いします」


「いえ、これも仕事ですから。それに森山さんのような探索者の皆さんに協力していただけるのはこちらとしてもありがたいですからね」


 ダンジョンの封鎖が解除されたその日、家を訪ねてきてくれた佐藤さんと並んでダンジョンへと向かう。事前に依頼していた装備品の貸し出しを受けるのと、探索者支援に関する説明を受けるためだ。


「それに私の仕事はほとんどないんですよ」


 佐藤さんがそんなことを口にしたタイミングでダンジョンへとたどり着く。

 佐藤さんはそのままダンジョンの入退場システムが設置された監視小屋へと向かい、その手にタブレット端末を持って帰ってきた。


「では、まず森山さんのステータスを確認させていただけますか?」


「ええ、わかりました」


 そんな受け答えをかわし、ステータスを確認するためにダンジョンエリア内へと移動する。ダンジョンの中に入る必要はないので、とりあえずダンジョンクリスタルの前で立ち止まる。


「これでいいですか?」


 そう言って表示したステータスウインドウを佐藤さんの方へ向ける。ステータスウインドウは意外と融通が利くので、他人に見せようと思えばそのようにできる。


「ええ、ありがとうございます。モンスターの討伐数と最高到達階層について表示していただけますか?」


 言われた通りにステータスウインドウの表示を変更する。すると、それを確認しながら佐藤さんが端末へと何かを入力していく。

 なんとなくそれを眺めていると、佐藤さんが顔を上げて説明してくれた。


「これは、現時点での森山さんのデータを記録しているんですよ。申し訳ありませんが、森山さん宅のダンジョンに職員を置いておく余裕がありませんので、森山さんのダンジョン挑戦の評価については自己申告となります。なので、今後確認が必要となった場合にチェックするために現時点のデータを記録しているんです」


「……自己申告でいいんですか?」


「ええ」


「……まあ、そちらが構わないというのであれば良いんですが」


 佐藤さんの何の問題もないという表情に微妙な気持ちを抱きつつも納得する。確かに、基準となる今日のデータがあればその差分をとるだけで不正の有無は確認できるだろう。いつ不正が行われたのか、どの程度の不正だったかなどの詳細はともかくとして。


 その後、佐藤さんから探索者支援の報酬を受け取るために必要な入力画面についての説明を受ける。といっても、モンスターの討伐数と到達階層を入力するだけなので大したことはない。せいぜい、モンスターの種類まで入力しなければいけないのが面倒だと思う程度だ。


 そんな説明を受け終わると次は装備品の受け渡しとなる。こちらの話が終わったのを確認して、少し離れた場所で待機していた巡回チームの人が装備品を手にやってきた。


「こちらが森山さんから申請のあった装備品となります」


「ありがとうございます」


 そう言って差し出してくる装備品を受け取る。受け取ったのは希望していたメイスと盾の2つ。

 メイスは普段使っているものよりもやや小ぶりのもの。盾の方は直径30cmほどのラウンドシールドという奴だ。


 受け取ったメイスを右手で軽く振ってみる。

 ステータスを確認してから移動していないので、ダンジョン内部ではないがダンジョンエリア内ということでステータス補正は問題なく発揮されている。

 そのことを確認し、今度は振り方を変えたり、左手に持ち替えたりして振ってみる。



「問題なさそうですね」


 結果は、当たり前だが特に問題なかった。

 まあ、そもそも特殊警棒を試したときの感覚でやや短めのものが良いと要望を出していて、実際にその要望に沿うものを用意してもらったのだから、素振り程度で問題が出るはずもない。


 盾の方については何とも言えないが、少なくともメイスを軽く叩きつけた程度では問題なさそうだった。衝撃がほとんど感じられなかったので、おそらく大丈夫だとは思う。盾の方もメイスと同じくダンジョン産のものなので、きっと期待通りの成果を上げてくれるはずだ。


「問題ないようでなによりです。お手数ですが、受領のサインをいただけますか?」


 こちらが確認を終えたことを見て取り、佐藤さんがそう告げてくる。それに頷き返し、監視小屋へと戻って書類へサインする。


「はい、問題ないです。それで森山さんにお聞きしたいのですが、自衛隊の巡回はどうしますか?これまで通り行うか、それとも最低限の巡回頻度に減らしたほうが良いですか?さすがにモンスターを溢れさせるわけにはいきませんので、巡回をなくすというのは難しいのですが」


「あー、探索者支援のモンスターの討伐数を稼ぐためにですか?」


「ええ、自衛隊の巡回が入るとその際に討伐したモンスターはリスポーンを待たないといけなくなりますからね。成果報酬のために討伐数を増やすのであれば巡回が邪魔になることもあるのですよ」


 まあ、言われてみればその通りだろう。正直、これまでの実績から最低報酬以外は無理だと思っていたのであまり気にしていなかったが、普通に考えれば巡回のタイミングを避けるなりしないと討伐数というか、モンスターとの遭遇は減ってしまう。

 だが、俺の場合は気にする必要もないだろう。……いや、美冬ちゃんと組むようになると考慮する必要があるか?


「とりあえずは今まで通りの巡回でお願いします。ただ、しばらくしてからなんですが、パーティーを組むことになるのでその際に巡回の時間だったり頻度だったりについて相談させてもらうかもしれません」


「ええ、事前にお話をいただければ巡回に関してはできる限り対応させてもらいますよ。それにしても、森山さんもパーティーを組まれるのですか。いやあ、そうなると安心ですね」


「あー、やっぱりソロというのはマズかったですか?」


「あっ、いえ、森山さんを責めているというわけではないのですよ。ただ、いざというときに他の人がいるというのはやはり違いますから」


 まあ、佐藤さんの言わんとしていることもわかる。実際、ボロボロになったときに1人というのと他の人間がいるというのではかなり違うだろう。パーティーであるなら一緒にボロボロになっている可能性もあるが、それでも1人よりはマシなはずだ。ダンジョン内では瀕死に近いHPになったとしても動けなくなるというわけではないのだから。


 その後、佐藤さんは帰路につき、巡回チームの2人はダンジョンへと向かった。

 巡回チームの2人からは一緒にダンジョンに行ってみないかという話も出たんだが、新しい装備品を手にしたばかりなので遠慮した。

 正直、興味はあったんだが、忙しいであろう2人の手を煩わせるのは気が引けたのだ。探索者支援には自衛隊の実地指導というものもあるし、機会があればそちらでいいだろう。俺としても新しい装備品の慣らしは自分のペースで落ち着いてやりたい。

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