第39話 ダンジョン産武器と新しいスキル(2)

 説明を聞いたことで、さらに悩むことになった。どちらのスキルも絶対に欲しいというほどではないが、あれば便利だという程度には感じられたからだ。

 “投擲”については、遠距離からの牽制手段だけでも欲しかった俺にとっては有用だ。家の前に出現したダンジョンについても、現状第6階層までしかないため、小石程度では無理でも小さな鉄球を用意すれば最下層でも牽制程度には使えるだろう。

 “壁走り”についても、ダンジョンの第4階層が迷宮エリアになっているという情報を自衛隊の調査結果で聞いている以上は有用だろう。また、通常のエリアでも通路での戦闘を有利にする効果があるのであれば意味があるはずだ。


 ……そう考えると買いなのか?


 ネックになっているのはなんだ?値段か?

 確かに“投擲”スキルが300万、“壁走り”スキルが120万と安くはない。だが、ストーンゴーレムに殺されかけた以上、今後もダンジョンに挑戦するのであればその程度は必要経費と割り切るべきだろう。正直、ダンジョンからの実入りがないのであまりお金はかけたくないが仕方ない。


 他にあるとすればスキルの持ちすぎでスキルの成長が遅くなって、スキルレベルを上げる効率が悪くなることか。だが、スキルのレベルを上げる効率を考える必要があるのか?

 現状、時間がかかって困ることがあるかと言われると特にない。強いて言えば、俺がゆっくりと過ごせるようになるまでに時間がかかるだけだ。

 ……いや、ダンジョンが成長する可能性があるのか。

 だが、ダンジョンが成長したとしても、攻略に必要となるレベルが高くなるだけだろう。結局は時間がかかるだけだ。まあ、最悪のケースとして、レベル上げ→ダンジョン成長→レベル上げ→……と延々に続くケースが考えられなくもないが、その場合は素直に俺の手には負えないとして、自衛隊なりダンジョン管理機構なりに任せるべきだろう。

 そうなると、優先すべきはレベルを上げる際の、ダンジョンに挑戦している最中の安全を確保することになりそうだ。であれば、一昨日の反省を生かして有用なスキルは取得していった方が良いだろう。


 そう結論を出し、悩んでいた2つのスキルスクロールを購入するつもりで店長へと話しかけた。


「すいません、お聞きした2つのスキルスクロールは購入したいと思うのですが、メインに使用する武器はメイスにするつもりなんです。なので、“メイス”のスキルスクロールについて取り寄せることはできませんか?」


「おお、ありがとうございます。先ほどの2つ以外に“メイス”のスキルスクロールについても購入されたいということですね。ちなみに、他に必要なスキルスクロールはありますか?」


 説明を受けてから悩み続けていた俺を律儀に待っていてくれた店長はそう言って確認してきた。


「そうですね、魔法のスキルスクロールがあれば欲しいですね」


「魔法のスキルスクロールですか……。“メイス”のスキルスクロールであれば、何店舗かに在庫があったと把握しているんですが、魔法のスキルスクロールはどの属性も予約待ちの状態だったと思います。一応、各店舗の在庫を確認いたしますが」


「そうですか……。ところで、各店舗の在庫の確認ができるようですがそれを確認させてもらうことはできますか?」


 店長の回答を聞いて気になったことを確認してみる。他の店舗の在庫であれば、この店に無い、より有用なスキルスクロールがあるのではないかと考えたのだ。


「パソコンで直接確認していただくことはできませんが、プリントアウトしたリストであれば可能です。お持ちしますか?」


「ええ、ぜひお願いします」


「わかりました。“メイス”のスキルスクロールの取り寄せ手続きと一緒にプリントアウトもしてきますので、少々お待ちください」


 店長はそう言うと、レジカウンターの向こうにある扉へと消えていった。



 店長を見送った後、やることもないので隣の魔法道具のコーナーを覗いてみることにした。

 特に購入したい物があるわけではなかったが、魔法道具については“マジックバッグ”などの有名な物しか知らない。この機会にどういった物があるのかを確認しておくのもいいだろう。

 だが、移動した魔法道具のコーナーはスキルスクロールほどではないが品ぞろえが良いとは言えない状態だった。

 目玉商品であるはずの“マジックバッグ”は在庫が無く、HPやMPを回復させる装飾品もない。置いてあるのは下級に分類される魔法道具や比較的入手率が高い“マジックストーン”と呼ばれる魔法道具のみであった。

 やはり探索者の減少で魔法道具についても入手できる数が減っているのだろうか、そんなことを考えながらそれぞれを確認していく。


 ダンジョン内限定だがMPを使用して火を起こす“マジックコンロ”や水を生み出す“マジックボトル”、この2つは比較的数があるようだ。まあ、基本的に1人に1つあれば十分だし、ダンジョン内で休憩をとらないのであればそもそも不要だ。それで数があるんだろう。

 その隣にあるのは、ダンジョン内のマッピングに使用する“マジックログ”だ。1枚につき1階層しか記録されないらしいが、使用するとダンジョン内で移動した周囲の地形が記録されるらしい。家のダンジョンのような造りが単純なダンジョンでは特に必要ないが、造りが複雑なダンジョンでは重宝されるそうだ。手書きのマッピングでも対応はできるが、“マジックログ”の方が確実で正確らしい。ただ残念ながら、迷宮エリアには使用できないそうだが。まあ、迷宮エリアは1日ごとに通路が変化するらしいので当たり前と言えば当たり前か。

 その隣は“マジックバッグ”が置いてあったらしいが、今は入荷待ちの札が置かれているだけだ。


 レジカウンターの方を確認してみるが、まだ店長は戻らないようだ。仕方がないので次の棚の確認に移る。

 次の棚には各種“マジックストーン”が置かれていた。使用者の周囲に光源を発生させるもの、煙幕を発生させるもの、爆発の魔法を発生させるもの、雷撃の魔法を発生させるもの、凍結の魔法を発生させるもの、落石の魔法を発生させるもの、ここまでが在庫があるもののようだ。

 各種魔法を発生させるものは数が少ないが、いくつかは残っている。遠距離攻撃として“投擲”のスキルを取得するつもりだがいくつか買っておくか?魔法の威力は使用者のステータスに比例するらしいが。

 値段を確認してみる。魔法の方は3つで50万、光源、煙幕は5つで10万らしい。魔法の方は中級の魔法道具になるようなので仕方ないのかもしれないが、躊躇する値段だ。だが、いざというときの切り札と考えるのであれば仕方ないのかもしれない。

 そう考え、爆発と凍結の2種類を購入することを決める。


 その横に目を向けるがそちらは売り切れらしい。ダンジョンの入り口へ戻ることができる“マジックストーン”があったようだが、入荷待ちの札が置かれている。

 さらにその隣は装飾品が置かれていた場所のようだ。こちらも商品名のタグが残っているだけで、商品が置かれるべき場所には入荷待ちの札が置かれている。


 他にも確認してみようかと体の向きを変えると、レジカウンターの奥から出てくる店長の姿が見えた。どうやら、スキルスクロールの在庫確認が終わったようだ。店長のもとへと戻ることにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る