ダンジョンのある風景
はぐれうさぎ
プロローグ
2年前のある日、日本にダンジョンが出現した。出現したダンジョンは膨大な数にのぼり、日本国内だけでなく世界各地で出現していた。
この事態を受け、政府はすぐさまダンジョンの調査に乗り出したが、表面的な情報が得られたのみでダンジョンが出現した原因につながるような情報は得られなかった。
政府が発表したダンジョンに関する情報は以下のとおりである。
・ダンジョンの入り口には“ダンジョンクリスタル”と呼ばれる青い大きな水晶が設置されている
・ダンジョンクリスタルに触れた者はダンジョンに関する情報とスキルを手に入れることができる
・スキルはダンジョンエリア内でしか使用できない
・ダンジョン内にはモンスターや宝箱が存在し、侵入者に対する罠も仕掛けられている
・モンスターを倒しても死体は残らず光となって消える
・モンスターを倒した場合に金貨などのドロップアイテムを残す場合がある
・ダンジョン内ではステータスが存在し、モンスターを倒すことでレベルアップする
これらの情報が公表されるとすぐに「ダンジョンに入ってみたい」、「一般にもダンジョンを公開すべきだ」といった要望が聞こえるようになった。さらに、海外でのダンジョン探索の様子やダンジョンで手に入れた金貨や宝石などの情報が広がるとこのような要望はますます大きくなった。
しかし、政府はダンジョンの一般公開を頑なに拒み、ダンジョンクリスタルやスキル、モンスターに対する調査を続けたのである。
そのような情勢の中で1か月が経過し、それは発生した。
全国各地でダンジョンにいたモンスターたちが突然あふれ出てきたのである。
幸いなことに、氾濫したモンスターたちは周囲のダンジョンに配備されていた自衛隊の隊員たちによりすぐさま掃討されため、負傷者は出たものの死者は発生しなかった。
その後、出現したモンスターたちを追跡した結果、モンスターたちは未発見のダンジョンから氾濫していたことが判明した。
この事態を重く受け止めた政府は、自衛隊や地域の警察に協力を求め、改めて国内にあるすべてのダンジョンの把握に乗り出した。
その結果、いくつかの氾濫騒ぎを起こしながらもおよそ200件の未確認ダンジョンを新たに発見し、国内のダンジョン数は2897件となった。
国内のダンジョンの把握が完了した後、政府はいくつかのダンジョンをピックアップしてダンジョン最深部を含めた詳細調査を行うことを決定した。
対象のダンジョンは、北海道、山形、東京、大阪、福岡にある5か所で、各ダンジョンともに階層数が5階層の平均的なダンジョンであった。
この調査により、東京、大阪のダンジョンで最深部まで到達し、“ダンジョンコア”を破壊、ダンジョンの消滅に成功した。
しかし、北海道、山形、福岡のダンジョンでは最深部へ到達することができず、特に福岡では転移トラップとモンスターハウスの組み合わせにより調査部隊に多大な被害が発生してしまった。
さらに、この3か所のダンジョンでは調査後に階層数の増加が確認され、ダンジョンが成長することが明らかとなった。他のダンジョンで階層数の増加が確認されなかったことから、大人数の調査部隊が侵入したためにダンジョンが成長したのではないかと危惧する意見も出た。
この結果を受けて政府内では2つの意見が生まれた。
多少の被害を覚悟してでもすぐにダンジョンの消滅を目指すべきだという強硬派とこれ以上の被害が出ないよう万全の準備を整えて1つ1つ慎重にダンジョンを攻略すべきという慎重派である。
しかし、そのような協議が行われている中、再びモンスターの氾濫が発生した。今回の氾濫は未発見ダンジョンからではなく発見済みのダンジョンから、それも複数で発生していた。
氾濫したダンジョンはすでに自衛隊の監視下に置かれていたためすぐに制圧することができたが、発見済みのダンジョンからでもモンスターの氾濫が起きるという事態は政府内を慌てさせるには十分だった。
すぐさまダンジョンに対する方針の検討を中断し、モンスターが氾濫した原因の調査を指示したのである。
その結果、モンスターの氾濫が発生したダンジョンでは、周囲の封鎖のみで内部へ立ち入っての調査を実施していなかったことが判明した。このため、政府は複数のダンジョンに対して侵入人数や1日あたりの侵入時間の検証をするよう指示した。
この検証により、ダンジョンへ侵入しない、またはダンジョンへの侵入時間が1日に1時間未満で1週間経過した場合にモンスターの氾濫が起きるという結論が得られた。
また、モンスターの氾濫時、ダンジョンエリアが入り口を中心として半径1kmほどの円状に広がることが確認された。これにより、、ダンジョンの外部でもダンジョンエリア内であればスキルの使用が可能であることが実証された。しかし、モンスターの制圧と同時にダンジョンエリアも元通りとなったため、やはりダンジョン外部でスキルを使用することはできないようであった。
その他にも、この検証によりダンジョンの成長が進入した調査隊の人数に関係なく起きることが確認された。氾濫を検証するため、ダンジョンへの進入を中止していたダンジョンで成長が確認されたのである。
これらの結果により、ダンジョンは積極的に攻略すべきであるという結論が検証チームにより出された。
これらの報告を受けた政府はダンジョンに対する方針を決定し、国民に対して発表した。
政府から発表された方針は以下のとおりである。
・国内のダンジョンを管理、監視するため、新たに“ダンジョン管理機構”を設立する
・自衛隊内にダンジョン攻略を専門とする部隊を新設し、ダンジョン管理機構と協力して重要度の高いダンジョンから攻略を実施していく
・自衛隊の部隊だけでは人員が不足するため、ダンジョン管理機構で“探索者”という資格を新設し、ダンジョン攻略の人員を広く一般からも募集する
ダンジョンの出現から約3か月。日本でも一般へのダンジョン解放が発表された。
そして発表から1か月後、ダンジョン管理機構が設立され、多数の探索者がダンジョンへと挑戦していったのである。
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