第10話 蠱毒の話 その1

 蠱毒というのを最初に知ったのはいつだったのかは覚えていないです。多分、小説か漫画だと思うんですよね。

沢山の虫を一つのツボに入れて、その中で喰らいあって生き残った一匹を使って呪う方法と、頭だけを出した犬を飢えさせてその頸を刎ねて呪いに使う方法の2つを別々の所で知ったと思います。

 蠱毒について書かれている本は『中国最強の呪い 蠱毒』という本しか知りません。この本は本屋で見かけて衝動買いしました。丁度、憑物について興味があった時だったもので。

なぜ蠱毒と憑物なのかといえば、犬神憑きが気になってたんです。蠱毒でも犬を呪いたい相手に差し向ける方法があるのを知っていたので、ぼんやりとなにか関係があったら面白いな程度の興味でした。

買ったはいいんですが、この本は長い間積読状態のままにしていました。

個人的な話ですが、本に関しては少々コレクター気味なんです。それでいて多くは積読なんです。

 先日、ふとこの本を読み始めました。まだ初っ端もいいところなんですが、面白いと思った記述がありまして。甲骨文字の時代から蠱というのがあって、これは病の一つを指すということと書いてありました。

それでタイプとしては2つあって、一つは虫が原因の病気。もう一つは、「刑死した者の怨霊」というものだそうです。

そう言えばアフリカなどには呪術師がいて、医者で直せない病気は呪いなどが原因だから、呪術師が治療するという話を聞いたことがあります。そう考えると、どの地域でも、呪われて体調不良を起こした場合も、病気と見做されるということなのでしょうか。病気の原因が怨霊というと、昔の人はそんな風に考えるなんてといって見下す人もいるかもしれませんが。

そう考える人は、そう考えれば良いと思うんですよね。でも、科学はまだわからないこともたくさんあるじゃないですか。科学でわからないから否定するというのは、少し違うような気がするんです。

話がそれました。


 蠱毒は中国で発祥した方法ですが、日本にはいつ頃伝わったんでしょうか。それで病気だと認識されているならばと、気がついたのは日本最古の医学書と言われている『医心方いしんほう』。あれは平安時代に書かれた医学書なので蠱毒のことも書いてあるのでは、と思い至ったわけです。

しかし、医心方の訳本は仙道篇しか持っていない。とりあえず仙道篇で探してみたら、残念ながら蠱毒について触れられている箇所は無かった。それでネットで“医心方 蠱毒”で調べたら、外傷篇に乗っているという情報がありました。

ちなみに『医心方 仙道篇』の全訳は槇佐知子さんが訳したものが筑摩書房から出ているのだけだったと認識してます。ネットで見るとこの本の訳については色々と言われているんですが、平安時代の文書なんて読めない私には、現代語訳が必要なんです。

医心方で記載があるならば、日本には984年の段階ですでに伝わっていたということになりますよね。日本は遣隋使だ遣唐使だと中国に行っては様々な書籍などを持ってきていたから、あってもおかしくはない話です。

 それで買っちゃいました『医心方 外傷篇』。古本屋さんで見つけました!

槇さん以外のも外傷篇はあったと思いますが、槇さんのです。蠱毒についての記載、ちゃんとありました。解説によると『医心方』は中国の『諸病源侯論』を参考にしているらしいんですが、これ610年に随で編纂された医学書だそうで、巻25と26が蠱毒について色々と書かれていると説明がありました。

『医心方』で蠱毒の簡単な説明がされていました。器に入れて食い合いをさせるものだと書かれていました。

イヌの話はないですね。どっから来たんだろうイヌ。それともイヌは別のものなのかな。私の勘違い?まあ、置いときます。


蠱には幾つかの種類があって、その種類によって症状や対応が違うようです。種類について挙げられていたのは、蛇、蜥蜴、蝦蟇、蜣蜋きょうろう(注釈ではフンコロガシ)、飛蠱ひこというのでした。あと地域でとりつかれるとかいう蠱で氐羌ていきょう蠱というのも挙げられていました。飛蠱についての説明はなかったので、なんだかわかりません。

それから、これ怖いなと思ったのが野道やどう。なんでかって言うと、主がいなくなった蠱で、田野や道路にとどまっていて、人に害するものになったものだそうです。

蠱毒かそれとも別の病気かを見分ける方法、蠱毒を仕込んだ相手の名前を聞き出す方法、それから治療法が書いてありました。症状を見てみると、蠱毒は内臓系がやられてしまうようです。

本のページ数が511ページでそのうち蠱毒については27ページなので、そんなに記載が無かったのは少し残念ですが、今まで物語や昔話などで耳にした蠱毒というものが、昔の本とはいえ医学書にきちんと対処法など含めて書いてあるということを知ったのは、ちょっと感動モノではあります。

蠱毒が外傷篇にあったのは、外傷篇が獣や虫によって引き起こされる怪我や病気の対処法だったからみたいです。認識としては蠱毒もその延長だったんですね。ちなみに、蠱毒の部分の解説で、

「大己貴神と少彦名神は、協力して這う虫のわざと呪禁と疾病を明らかにして治療法を教え、人々の苦しみを救った と伝えられている。その虫の中には蠱を封ずる法もあったのではないだろうか。」

と書かれてます。もし、そうならば、少彦名神は渡来神だったと思いますので、中国から来たということになりそうです。

蠱毒について直接書かれているわけではないので、わかりませんがね。『医心方』では虫による病気も蠱毒とは別にきちんと分けてありましたから。


蠱毒について詳しい人って、『諸病源侯論』とか参考にしているんですかね。でも、病気とその治療というのが主眼だから違うかな。


因みに『中国最強の呪い 蠱毒』の著者はお医者さんです。漢方医だったりします。

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