不人気ダンジョンのボスモンスターのアルラウネさん、配信者になる

下垣

第1話  自作ダンジョンの素材を宣伝するために配信者になったら予想外に人気出てしまった

 人口爆発が起こった魔界。魔界の土地が足りなくなったので、人間界との不可侵条約を改正して、魔界のモンスターの一部を人間界に送ることとなった。しかし、人間とモンスターが共存すると混乱が起こるのは必至である。そのため、ダンジョンと呼ばれる区域を作り、モンスターはそこから出ないことを条件に人間界に住むことを許された。


 ダンジョンはモンスターの生息環境に合わせるために、魔界の環境に近いものとなっている。そのため、人間界に存在しない植物、鉱石と言った資源が存在していることになる。それに目を付けたのが一部の強欲な人間だった。モンスターはダンジョンから出ることを禁じられているのに対して、人間はダンジョンに立ち入ることに対しての制限はない。それを逆手にとって、探索者シーカーと呼ばれる人間がダンジョンの素材を採取するという事態に発展した。


 そこから、資源を奪われたくないモンスターと資源を奪いたい人間の争いが勃発することとなったのだった。


 これに遺憾の意を覚えたモンスターたちは、人間狩り制度を制定した。多くの探索者を葬ったモンスターに報酬を支払ったり、魔界に戻して要職に就かせる。つまり出世させる。なにせ、魔界側にとっても人間の魂は貴重な素材になりえるから、倒すメリットはある。


 ダンジョン内での法律はちょっと変わっていて、人間同士での争いは人間界の法律が適応されて、モンスター同士での争いは魔界の法律が適当される。では、モンスターと人間の争いは……どっちの法律も適応されない。つまり、無法地帯ってコト。


 まあ、今言った話は私にはなーんにも関係ない話。だって、このダンジョンに訪れる人間なんて1人しかいないもの。


「あーヒマー! 私も出世したいよー!」


 ツタを編んで作ったベッドでごろごろと転がる私。そんな私の私室にいる1人の人間の男の人。彼は私のマネージャーの篠崎しのざきさんだ。篠崎さんはメガネをくいっと上げると手帳を取り出した。


「ルネさん。先月、このダンジョンに立ち入った探索者は0人です」


「やめて、そんなこと言わないで!」


「いいじゃないですか。平和ですから」


 平和……確かに。私が作ったこのダンジョンに誰も来ないのは、私にとっては安全かもしれない。けれど……!


「違うのー! 私は出世したいのー! そして、魔界に帰ってパパとママに会いたいの!」


「はあ、そうですか」


 魔界の新生児は生まれた段階で抽選にて強制的にダンジョン送りにされるか決定される。そして、抽選に当たったモンスターは一定以上の年齢になったら強制的に人間界のダンジョンに送られて親と会えなくなる。私は運悪くその抽選に当たってしまった。


 そして、ダンジョンに送られるまで、当人にすら抽選が当たったことを知らされない。これは過去に事前告知したら、そのモンスターがダンジョンに行きたくなさ過ぎて、逃亡して色々と大変だったからという理由がある。私も事前に知っていたら逃げてたと思う。


「そのためには、人間をいっぱいぶっ殺して、出世しないと……! 出世すれば魔界に戻ってエリート生活なんだから!」


 私はチラっと篠崎さんを見る。彼も人間だ。ここで始末すれば……


「変な気は起こさないで下さいね。ダンジョンに訪れる探索者は殺しても構いません。ですが、モンスターの生活を支えるマネージャーを殺害した場合は特例で罪に問われることになります」


「だめかー」


「ルネさんは恵まれている方だと思いますよ。なにせ、モンスターカースト制度の中でもそこそこ上位種のアルラウネ。そのお陰でなにもせずともダンジョンの主、ボスモンスターになれたんですから」


 モンスターは生まれた種族で大まかな階級が決まってしまう。私の種族であるアルラウネは、魔界でもそこそこ上位として扱われる。だから、私がダンジョンを自作する権利を得て、そこのボスモンスターとして君臨することができた。これが下位種のモンスターだったら、自分でダンジョンも作れないし、ボスモンスターの配下の雑魚モンスターになる運命。当然、ボスモンスターの方が出世が優先されるから、雑魚モンスターで抽選に当たるとそれはもう悲しいことになる。


「篠崎さん。なにかダンジョンに人が訪れる画期的なアイディアないのー?」


「アイディアですか? 素人考えで恐縮ですが、配信者になってみるのはいかがでしょうか?」


「背信者!? まさか、魔界に反旗を翻すんじゃ……」


「そっちではありません。ルネさんがダンジョン内で動画を撮影して、それを全世界に公開してアピールするんです」


「へー。そんなことできるんだ。でも、ダンジョンって通信できたっけ?」


 ダンジョン内では魔界の環境に近い。魔界の環境では、人間界のテクノロジーは通用しない。つまり、銃火器と呼ばれる近代兵器は役に立たないし、通信技術とやらも使えないみたい。


「最近の技術の進歩は恐ろしいものがありまして、ダンジョンでもWiFiが通じるようになったんですよね。まあ、人間界の銃火器は相変わらず使えないんですが」


「そうなんですか! それじゃあ、私も人間に向けて何かを発信できるってことですか?」


 人間界はネット社会とも言われている。ダンジョンのモンスターはそれに便乗することができないから、実質的な時代遅れな感じがしたけれど……やっと私の時代が来た!?


「善は急げです。早速、ルネさんの動画を撮影しましょう」


「はーい」



「えっと、愚かな人類のみなさん。初めまして。私は魔界からやってきたアルラウネのルネです。ダンジョンのボスモンスターをやってまーす!」


 精一杯の笑顔を見せる。やっぱり何事も笑顔は大事。それは魔界でも人間界でも変わらない。


「私の種族のアルラウネは体が植物でできているんですよ。だから、私の体も緑色の肌をしているでしょ? これは体に葉緑素が入っているからなの。ダンジョン内には小規模な擬似太陽があって、それで光合成しているんだ。擬似太陽のお陰でダンジョン内でも明るいから、探索者のみんなは照明持って行く必要がないのは安心だね!」


 他になにか言うべきことはないかな。あ、そうだ。ダンジョンに来て欲しいことを言わないと。


「私の住んでいるダンジョンはあんまり人が来てくれないんですよね。私も探索者のみなさんと会いたいんです。だから、来てくれると嬉しいなって。今後の配信では、私のダンジョンで取れる素材の有用性とかも配信していく予定だからチェックしてね!」


 大体こんな感じかな? 言うべきことは言った気がする。自己紹介動画だし、あんまり長すぎるのもアレなんでそろそろ締めようか。


「そんなわけで、私に会いたいって探索者の人は、概要頼にある住所に凸しに来てね。待ってるよー。じゃあねー。ばいばーい!」


「はい、撮影終了です」


 動画を撮影していた篠崎さんが撮影の終わりを告げた瞬間、私は緊張から解放されて「はー」とため息をついた。


「行けると思う?」


「まあ、バズるかどうかは運次第なところもありますし、こういうのは継続することが大事です。気長にやっていきましょう」


 編集やエンコード、アップロード作業は篠崎さんがやってくれるみたい。私は篠崎さんがアップロードした動画をスマホで確認してみた。再生数は100程度。これって多いのか少ないのかもわからない。コメントは1件来ている。


『かわいい』


「うぇへえええ」


 変な笑い声がでた。たった一言の感想、褒め言葉でも嬉しい。なんかモチベーションが上がって来た。よーし、これからも動画を撮るぞ。そして、私の魅力をエサに探索者であいちゅうを釣って、ぶっ殺して、魂を魔界に献上して出世して、そしてパパとママに会いに行くんだ!

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