小さな本屋の猫王子

景綱

第1話

「お待ちどうさま、本好きのあなたも猫好きのあなたも寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。木曜日、お昼のひととき、小さな魔法の本屋であなたにぴったりの本をみつけましょう。どんな本でもみつけて差し上げます」

 

『小さな魔法の本屋さん』との文字が書かれたピンク色のワンボックスカーに揺られて今日も田舎町にやってきた。本を好きになってほしくてやってきた。

 ぼくは魔法使いの猫王子。本の世界からやってきた。ビロードで出来たワインレッドのマントを羽織はおり、笑顔を届けにやってきた。


「来たよ、来たよ。猫王子の本屋さんが来たよ」


 早速、お客様がお越しのようだ。

 ぼくの言葉は魔法で作った兄さんが代わりに話してくれる。もちろん、人だよ。猫が人の言葉を話したら驚くだろう。猫が運転していたら驚くだろう。

 ぼくの相棒の兄さんが全部代わりにやってくれる。魔法って素晴らしい。


「猫王子、こんにちは」


 いつものお嬢さんが頭を撫でてくれる。これがまた気持ちいい。素敵なお嬢さんだ。本好きだってのがまたまた嬉しい。


「いらっしゃい。いつもありがとう。猫王子も喜んでいるよ」

「喜んでくれてたら嬉しい。あっ、お兄さんもこんにちは」

「こんにちは。で、今日はどんな本をお望みですか」

「うーん、そうだな。先週は恋愛もの読んだでしょ。その前はミステリーだったし、ファンタジーにしようかな。うーん。とにかく楽しいエンタメな話がいい。ジャンルはなんでもいい。あるかな」

「もちろん」


 ありますとも。ページをめくるたびにワクワクドキドキのとっておきの物語が。

 ぼくに出来ないことなんてない。ペロリと鼻の頭をなめて、ニヤリとする。


「読んでいるだけで、本の世界に入り込んでしまうことけ合い。聞こえるはずのない音色まで奏でて差し上げましょう。魔法の本屋ですから」

「うんうん、楽しみ、楽しみ」

「今日のあたなの本は、こちら『ドリームメロディータイム』です。はい、どうぞ」

「うわぁ、表紙も素敵」

「あっ、いけません。本の扉はおうちに帰ってから。じゃないと、迷子になってしまいますからね。約束は守ってくださいね」

「にゃにゃ」

「はい、お兄さんに猫王子」


 そうそう、この本は魔法の本。気づかないうちに本当に本の世界に旅立ってしまう本。外で読んでしまうと帰るべき場所へ戻れなくなってしまう本。

 そうなったら、ぼくが本の世界を案内してもいいけどね。ニヤリ。

 ああ、今日も気持ちい風が吹いている。お気に入りのビロードのマントがパタパタして、じゃれつきたくなっちゃうよ。

 おっと、そんな場合じゃなかった。次の坊やをご案内しなきゃ。


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