第九文「思惑、それぞれ」

今日の講義を終え、僕は大学の友人と近くのレストランで昼食を摂っていた。


「んー・・・なんつーか、軽いナンパだと思われたんじゃね?」


「・・・やっぱり、そうなのかなぁ・・・」


携帯の着信履歴を再び辿ってみるが、結果は同じ。ほぼ、見知った友人たちのものしかない。


あれから更に半月ほど過ぎたけれど、彼女からのリアクションは未だに無い。


「無理もないだろーなぁ。向こうはお前の顔も覚えてなかったくらいなんだしさ?」


サトシは、パスタをくるくると器用に巻き取りながらそう言った。


「・・・改めて言われると、凹む・・・」


あからさまにがっくりと、僕は肩を落とした。


―これでも結構、頑張って声掛けてきたつもりなんだけどなぁ・・・


そうなのだ。


毎週末のカフェ常連さんというだけでなく、平日の夕方にもよく、書店の方へは立ち寄っていたというのを知ったので、出会うたびに一言声掛けを実践していたのだ。



『いつもご利用有難うございます!』


『本、お好きなんですね!』


等々・・・もれなく、飛び切りのスマイル付きで。


それである程度は印象付けられたかと思って、バイトの休みを貰っていた日曜日に、話しかけてみたんだけど。


「ソッコー、逃げられたんだろ?」


「あ、あれはタイミングが・・・」


「合わなかっただけ、じゃないと思うぜー?ヒロが思ってたほど、相手の印象が薄かったんだろうなー」


わが友ながら、はっきり言う性格だなと痛感する。でもそこが、彼の良い所ではあるんだけど。


―今はサクサク突き刺さるなぁ・・・


「でもなー、親友の俺が言うのも何なんだけど・・・今回の場合は相手の女の方が、おかしいぜ?」


「・・・え?」


意外な言葉に、僕は思わず彼を真っ直ぐ見詰めてきょとんとしてしまった。


「何が、おかしい、と??」


彼は適当なことを言っているように見えて、時折発言の鋭さを増すことがあるので、そのギャップにしばしば驚かされることがあるのだ。恐らくこの度も、彼なりに思うところが有るのだろうと察し、問いただしてみた。



「えー?だってお前、割りかしイケメンの部類に入ると思うしさ?身長もあるだろ?まぁ、見た目だけじゃなく性格もいいのは保証するけど。そんな男に声掛けられたら、よっぽどで無い限りは嬉しいんじゃないかと思うんだけどなぁ、俺は」


相変わらず視線はパスタに向いたままで、そう言いきった。


「ねぇ、たとえばさ。余程のことって、どんなこと??」


「え??」


想定外の質問だったらしく、パスタを弄る手が止まった。


「あー・・・例えばだなぁ・・・そうそう!男嫌いで過去に嫌な思い出あるヤツとか、枯れ専とか、イケメンが嫌いなやつとか、まぁ・・・ひとすじなわでいかない――独特な性癖、ってヤツ?」


「ああ、成る程!」


「・・・お前、ほんっとに素直でいいヤツだなぁ」


「だって、その発想はとっさに思いつかなかったから、サトシやっぱその洞察はすごいよ!」


感心している僕を見て、何故かサトシが苦笑した。

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