監禁

舌ったらずな滑舌の紡ぐ音が美しくて、どうにも汚したかった。純粋で穢れもなさそうな彼の顔が歪む瞬間が見てみたかった。彼にとって自分は有象無象の一部に過ぎず、道端で彼に蹴とばしてもらえる石ころよりも彼から遠い。彼に近づきたくて、話しかけてみては自分の口下手さに霹靂して、けれど彼はそんな自分にも優し気に接してくれる。心優しい彼が裏切られて堕ちていく様子を、この目で見たくてたまらなかった。

彼は優しいから、殆ど見ず知らずの誰かから急にメッセージが来て、しかもそれが一階の、授業に使われている教室から少し遠い空き教室だったとしても、何の疑いも持たずに来てくれた。後から僕が入ってくると、彼は僕のほうを振り向いて緩やかに笑う。その顔のなんと魅惑的なことか!!!僕の心臓は一瞬で心拍数を20くらい上げてしまった。ただ、ここで動揺を悟られるわけにはいかず、彼から少し目を離して心を落ち着かせる。

「え、こんな所ではなしって、なに?」

柔い音が耳に吸い込まれる。間違いようもない彼の声。美しくて仕方がない。僕は思わず唾を飲み込んでしまう。我慢が利かなかった。がたん、と音がする。僕が彼を押し倒した音だった。

「ねえ、君のことが好きなんだ。ずっと前から好きだった。大丈夫、酷いことはしないよ。だって僕は君のことを愛しているから。」

彼の頬に手を当てながら、なるべく優しく聞こえるように囁いた。彼を自分のものにできるならそれでいい。そう思って彼の首筋に唇を寄せたときだった。

「なに、ぃやだ!!!!!」

悲鳴のような叫び声が上がる。ああ、これはまずいかもしれない。このままでは逃げられる。焦燥感に襲われた僕は咄嵯に行動を起こした。

「ごめんね!」

謝罪の言葉を口にしながら彼の首を右手で絞めた。もちろん本気ではない。息ができない程度に抑えたが、突然の出来事に彼は驚いているようだった。その隙に空いている左手で彼のポケットを探る。彼が慌てた様子でこちらを見た。何か言いたいことがあるらしいが、残念なことに気道をふさいでいるため言葉にならないようだった。

「せっかく、仲良くなれるかと思ったのに。まあいいか。これからちゃんと僕のものになってくれれば問題ないよね?」

今までで一番上手く話せた気がした。返事を聞く前に、彼からのポケットに入っていたスマホを奪う。電源を切るのを忘れずに行わなければ。そしてそれをそのまま自分のポケットに押し込んだ。これで彼はもう誰にも助けを求められないだろう。

「君が悪いんだよ。君が奇麗だったから。...これから、よろしくね?」

「う、ぁ...。」

意識を失いかけているのか、彼の口からは小さなうめき声しか聞こえなかった。しかし、それが苦しげなものから甘美な響きに変わる瞬間を想像するとぞくりとした快感が背中を走る。

「僕のものになったら大事にしてあげる。たくさん可愛がって、毎日一緒にいてあげるから。だからさ。」

彼の耳元でそっと呟く。

「早く堕ちてね。」

段々と彼の瞳が閉じる。死んでしまう可能性がないわけでもなかったが、最悪それでも良かった。次にもしも目を開けてくれたら、一生可愛がってあげる。

用意しておいた段ボールに彼を詰めて、箱を閉じた。借りているアパートが一階で、大学に近いくせに人の寄り付かない陰気な場所であることに心から感謝した。

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