第12話、友情

いや……嫌、そんなの…………」

 信じられない。信じたくない。シドーが居ない世界なんて。そんなのうそ

 私は自分自身に言い聞かせるようにつぶやく事しか出来できない。だけど、無情にも神はそんな私に無慈悲な言葉をげる。

「そも、我が計画がくるいを見せたのは貴様が大罪たいざいの因子を持ち込んだせいよな。ならば貴様にも相応のむくいをくれてやる」

「っ、嫌……シドー…………」

「いくらすがろうとも、あの小僧はもう二度と復活ふっかつはせん。我が自ら手を下した故な」

 絶望ぜつぼうが、その手を私にけた。そして……

 閃光が駆けた。瞬間、血のあかが神域の地面を染め上げた。

「ぐっ、……貴様、ゼン…………」

「え?」

 其処に居たのは、以前シドーを叩きのめしてっていった筈の男。シドーがゼンと呼んでいた人物じんぶつだった。

 何故、此処にゼンが?どうして私をたすけてくれるのか?理解出来ない状況に、私の頭を混乱が駆けめぐる。だが、ゼンは何もこたえない。

 何も答えずに、ただ黙って剣をかまえる。

「ゼンよ、貴様も我が意にそむくか。我を裏切うらぎるか……」

ちがうな。元より俺達はお前の味方みかたではなかった、それだけだろう?」

「…………貴様」

「俺達は全てを取りもどすだけだ。全てを取り戻し、元の生活せいかつに戻るだけだ……」

 そう言って、ゼンは剣の切っ先を神へ向けた。そして、決定的な宣戦布告せんせんふこくをする。

「俺は、俺達は……神のおもちゃではないっ‼」

「ならば、貴様も消えるがよい。我が手ずから消し去ってくれる」

 神の腕には、もう斬られたきずは無い。既に完治かんちしている。神にとって、即死となる致命傷以外は何ら問題もんだいにならない。そして、並大抵の攻撃ではそもそも大したダメージにならない。

 故に、彼は神なのだから。しかし、ゼンはそれでもおくさない。剣を構えて神へと立ち向かう。私を背に、神へといどむ。

「…………っ」

 そうだ。私達は神のおもちゃではない。だから、こんな程度であきらめてなるものか。

 シドーは神によって消されてしまった。なら、神の手からシドーを取り戻す。

 そっと、胸の前で手を組みいのる。神にではない、悪魔でもない。私は、私の為に彼を取り戻すのだ。シドーを取り戻すのだ。うばわれ、消し去られたシドーを取り戻すべく彼の存在を取り戻す。

 シドーの中には、サタンの因子いんしが宿っている。それは私が昔回収して私を経由してシドーへと渡ったものだ。

 故に、私とシドーの間には大罪の因子による因果いんがの繋がりが存在する。

 まだ、私の中にサタンの残滓ざんしと呼べるものが残っている。それにより、繋がる。

「シドー……戻ってきて、シドー……っ‼」

 消え去ったシドーに、私は必死に呼びかける。それは無茶や無謀と呼ばれる行為だろう。だが、それでも私はつづける。

 彼を失いたくないから。彼を取り戻したいから。だから……

 ・・・ ・・・ ・・・

 消えていく。俺の存在が消えていく。ただ、ゆらゆらと何もないの中を漂う。

 何もかもが、消えていく。俺が、俺は……

「本当に、それでいのか?」

 …………っ

「お前は神によって消し去られた。だが、本当にそれで良いのか?それで満足まんぞくしているのか?」

ちがうよな?お前はまだ死ねない理由りゆうがある。消えたくないだけの理由がある」

「ま、俺には関係かんけいのない話だがな……」

 …………っっ

「どうする?凍河原志道。お前はこんな場所でわっても良いのか?」

「どうなんだ?シドー」

「……お前が消えるなら、どうでも良いがね」

 …………そん、な……訳が。

「「「…………さあ、どうする?シドー」」」

「そんな、訳が……いだろうっっ‼‼」

 俺は、消え去る自分を何とか意思いしの力で繋ぎ止めた。自身の身体を、魂を、存在の全てを意思の力で繋ぎとどめる。

 そんな俺を、悪魔たち三柱は笑みを浮かべ見ていた。

 ベリアル、サタン、ベルフェゴール。三柱の悪魔たちは満足げに笑っている。それが無性にくやしい。そんな俺に、ベリアルは言った。

「お前には今、二つの選択肢せんたくしがある」

「二つの選択肢、だって?」

「ああ、一つは此処ですべてを諦めて消え去る選択。そしてもう一つは俺達悪魔の身体と魂と存在の全てをらい生まれ直す事だ」

「それは……」

「もちろんどの選択をしても俺達は契約けいやくを果たせなくなる。お前が全てを諦めれば俺達に与えられる筈の肉体も消滅しょうめつする。そして、俺達を喰らえば俺達は消え去る事になり契約そのものが無くなる」

 さあ、どうする?選択をせまる悪魔三柱。

 その選択肢を前に、俺は真っ直ぐと悪魔たちを見据みすえ言った。

「なら、俺はどれもえらばない」

「何……?」

「俺は、お前達の力をりて復活する。力を貸してくれ、悪魔たち‼」

 俺の言葉に、三柱の悪魔はだまり込んだ。だが、やがてせきを切ったように悪魔たち三柱の間で爆笑ばくしょうに包まれた。

 げらげらと腹をかかえて笑う悪魔たち。そんな悪魔たちを、俺はじっと見据える。

「そうか、俺達の力を借りて復活するか。それもまたいだろう」

「ただし、そのままではお前は失った肉体からだをどうにも出来ん」

「なら、俺達はお前の血肉ちにくとなろう。お前の肉体に俺達悪魔はこれからも宿やどり続ける事になるがね」

 そう言って、ベリアルとサタンとベルフェゴールは俺の身体にけて消えていく。

 そして……

 こえが聞こえる。シアンの声が、俺を呼ぶ彼女かのじょの声が聞こえた……

 俺は、シアンの呼ぶ方を向いた。そして、その方向に向かい力を解放かいほうした。

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