名も亡き神殺しの英雄譚!

kuro

少し長めのプロローグ

プロローグ

「シドー、貴方はとてもやさしい子よ。そんな貴方だからこそ、将来きっと辛い想いや後悔をかかえる事になる。けど、そんな時はすぐそばに居てくれる誰かの言葉に耳を傾けなさい。それが困難こんなんを打ち破る力になるから」

 それは、幼い頃俺達の親代おやがわりをしてくれたシスターの言葉だった。シスターは俺の事を優しいとひょうしたけど、俺から言わせればシスターの方がずっと優しいと思う。

 そんな彼女だったからこそ、俺はシスターの言いつけを守ろうと思ったのだから。

「人の目を見て、声を聞き、心に耳を傾けなさい。世界せかいは貴方が思っている以上に広くて素晴すばらしいものだから」

 シスターの言葉を教訓きょうくんに、俺達は今日もきている。

 ・・・ ・・・ ・・・

 其処で、俺は目をました。どうやらゆめを見ていたらしい。

「ずいぶんと、なつかしい……」

 俺こと凍河原志道いてがわらしどうは都内にある進学校にかよう高校二年生だ。現在17歳。

 親代わりをつとめていたシスターがくなり、俺と幼馴染の三人は近くにあるマンションの部屋をりる事で生活していた。もちろん、生活費等は高校に通いながらアルバイトする事でかせいでいる。

 俺は朝のシャワーを浴びた後、朝食を適当に済ませ歯磨はみがきを済ませてから学校の準備を全部終えて外に出る。其処には既に、幼馴染の二人が待っていた。

「よう、今日はずいぶんと手間てまがかかっていたな?」

「そうね、何時もより十分以上もぎているわ」

 俺をからかう幼馴染二人。葛城かつらぎゼンと天川あまかわオトメは俺にとって二人きりの親友だ。

 そんな二人に、俺は少し不機嫌ふきげんそうな表情をつくって言う。

「今日は懐かしい夢を見ていたんだよ」

「懐かしい夢?」

 俺の言葉に、オトメが首をわずかに傾ける。対するゼンは悪戯いたずらっぽい笑みで俺をからかいにくる。

「どうせエッチな夢でも見たんじゃないのか?オトメのはだかとか」

「なっ!?」

 ゼンの言葉に、オトメが顔を真っ赤にする。ゼンは俺がオトメに片思かたおもいしているのを知っている。だから、これは彼なりの応援おうえんなんだろう。

 けど、今回はそれはらない。

「違うよ、シスターの夢を見たんだ。あの人が以前俺達に言った言葉を思い出していたんだよ」

「……………………」

「……………………」

 シスター。彼女の存在はいまだに俺達の心に深くきざまれている。

 気まずい空気が流れる。

「……まあ、ともかくさっさと行こうぜ。早く行かないと学校にに合わない」

 そう言って、いつもの日常にちじょうへ戻ろうとした。その瞬間……

 俺達の足元が急にかがやき出した。

「え⁉」

「な、何だ……‼」

「これは、一体……」

 足元の輝きはやがて形を変え、円形の魔法陣まほうじんへと姿を変える。そして、その輝きは一層強くなって……

 ・・・ ・・・ ・・・

 気付けば、俺達はスカイブルーと純白の空間に立っていた。

「こ、此処は何処どこだ⁉」

「何で、どうして私達が‼」

「…………」

 三者三様の混乱こんらんを見せる俺達。そんな俺達に声をける者が一人居た。

「落ち着くが良い、人の子よ……」

 とてもおごそかな声。その声に、俺達は一斉にしずかになった。声だけではない。不自然なくらいに感情かんじょうが一斉に落ち着きを取り戻した。

 まるで、落ち着けと落ち着いたかのように……

 他の二人を見ても、どうやら同じらしい。二人とも不自然なくらいに落ち着いた顔をしている。どうしてか、感情のなみすら感じられない。

「我はかみ、至高にして全能なる唯一神ゆいいつしんなるぞ」

 その言葉に、俺達の身体は一斉に跪く体勢たいせいを取った。意識的にやったのでは断じてない。身体が勝手にそのようにうごいたんだ。

 いや、身体だけではない。俺の精神こころまでもが神を名乗るそいつに対する畏敬いけいの念で塗り潰されようとしている。おかしい、これは明らかに異常事態だ。他の二人もそうなのだろうか?

 分からないけど、そう推察するのが賢明けんめいなのだろう。事実、他の二人も感情の波が引いてゆき別の感情へとき換えられていく姿が見て取れる。

「全能なる神がめいずる。お前達には神の使徒として異世界へと渡ってもらう。その世界でお前達は神の教えを広め、神の敵対者をほろぼすのだ‼」

 その言葉に、俺達は一斉に頭を下げた。もはや恐怖きょうふすら感じない。神への畏怖に俺の心が塗り潰され、疑念すらもかなくなってゆく。

「では、行くのだ‼」

 そうして、俺達はその日全てをうしなった。

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