温古知新
麻倉 じゅんか
本編
街の片隅にある古本屋『ブルボン』。
普通の一高校生でバイトも出来ず、小遣いも大して貰えない俺は重宝している。
もちろん並んでいるのはほとんどが昔の本ばかり。
最新刊も、入ってくるのは誰かが読み終わったあとになる。出てから、早くても数日。翌日ここの本棚に並んでいるなんて滅多にない。
まあ、それでいい。本しか友達のいない俺にとって流行なんてどうでもいい事だからだ。
昔の本でも、まだ見たことのないものなら俺にとって新刊も同然なんだから。
――ちょっと話は変わる。
時々妄想することがある。ここで、同じ古本好きな女の子に出会えたらなあ、と。
……友人すらいない俺だが、彼女は欲しい。それも同じ趣味を語り合えるような子が。
ここに来たら偶然そんな子がいて、何かをきっかけに話すことになって、そこから仲良くできたらなあ、なんて思う事がある。
……無いよなあ、現実は過酷だ。
居るのは、いつも古本屋の奥のカウンターで店番をしているお婆さん。
「ほれ、お茶やお菓子をどうだい?」
「今日は、こんな面白い本があるよ」
「この本、昔は
お婆さん、文学少女だった頃はモテたんだろうなぁ。
なんて事を考えたこともある。
そうして今日も店の戸を開ける。新たな出会いに期待し、ワクワクしながら。
「いらっしゃーせー……」
…………。
「なっ、お婆さんが小さくなってるッ!?」
お婆さんが幼女に変わってた!
間違いない、女の子はお婆さんの
「ああ、これですか。これは『袢纏』と言って古い着物です。
寒い時に着ると暖かくていいですよ」
「いや、そうじゃなくて!」
「……ああ、すみません。私は、この店を経営する祖母の孫です」
……孫。一番有り得そうな可能性が頭から抜けていた。
『若い頃のお婆さんはモテていただろうな』とか考えていたせいか?
「もしかして私が、祖母の若返った姿と考えていましたか?
お兄さん妄想し過ぎです」
この子、辛辣だった。
そしてその通りで反論出来ない。
――これが彼女との初めての出会いだった。
小さな本好きの仲間との。
……本に対する意見の相違で喧嘩ばかりだけど仲のいい未来の妻との。
温古知新 麻倉 じゅんか @JunkaAsakura
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