第7話 第三王子アレン
新入生たちが指定された席に着き、入学式開始の時間となった。
開式宣言、入学許可の宣言が終わり、学園長の挨拶と続く。
ヘクトールの学園長は『
--英雄たちの逸話は誇張されていることが多いのよね……。学園長と大賢者ゼニス様には『時空を超えて過去の大賢者と会った』なんて訳の分からないものもあるけれど……。この圧倒的でいて柔らかな感じ……。あんな話が出てくるのも分かるわ……。
ローラは登壇したアイヴァンを見て思う。
--学園長と仲間であった大賢者ゼニス様……。そんな大賢者様であっても魔族との戦いでお亡くなりになってしまったというわ……。それだけで魔族との戦いがいかに熾烈なものだったかが理解できる……。今が平和世界で良かった……。
ローラがそんなことを考えていると、
「……今が平和だからといって平和に耽溺してはなりません。皆さんがこの学園で学び、身につけた力を他者のために用い、この平和を守るべく用いて頂きたいと考えております」
というアイヴァンの言葉が耳に入ってくる。
--そうね。平和を守る。世が乱れることが大きな戦いへとつながる……。これは歴史を紐解くと分かることだわ……。でも、私には無理な話ね。どちらかと言うと、平和に耽溺していたい……。
アイヴァンの言葉を聞いてローラは思った。平民で魔法の適性が高いというだけの女に何ができるというのか。
--勇者様の仲間だった『水の聖女』ミストリア様や『焔の剣姫』フレイアージュ様みたいな方なら話は分かるんだけど……。
そこでローラは右隣の少女を見る。
--この子は『焔の剣姫』フレイアージュ様の娘なのよね……。こういう子とか、貴族の子なら、学園長の言う通りに生きられると思うのよね……。
平民はあくまで平民。そういうことは、どこか別のところでやって欲しいとローラは思うのだった……。
◇◆◇
学園長の話も終わり、次は新入生代表の挨拶だ。新入生代表は入試成績一位の第三王子アレンが務める。
生徒席に着いていたアレンが立ち上がり登壇する。その黄金の髪と眼、体全体から発せられるその気迫にフュースとローラは圧倒される。今は『誰も知らない聖地』に眠る黄金龍アルハザードが人の形をとってこの場にいると言われても信じられる……。
登壇したアレンが話を始める。
「今日のよき日にヘクトールの門をくぐることができることを皆さまに感謝いたします。真新しい制服を身にまとい、ヘクトールでの生活への期待や希望に胸を膨らませております。これからの一年間、勉学・武技・魔術の修得に積極的に取り組み、新たな経験を通し多くの事を得たいと思います」
フュースとローラはアレンから目が離せなくなる。
--この人から立ち昇る気迫……。これは何? 戦いを望んでいるような……。
--王族はやっぱり違うわね……。近くにいたら、うっかり生命を捨てて忠誠を誓ってしまいそう……。
「『
--お母様は郷の剣姫たちを率いて戦った……。多くの剣姫たちが死んだ……。そして、戦火から逃げてきた女の人を郷は受け入れた……。ドナおばさんやヘナおばさんがそうだったって……。
--『徒過』ねえ……。サラッと際どい言葉を入れてくるわね、この王子様。『徒に過ごしてきた』なんて、王国に対する批判ね……。
アレンの言葉を聞いてフュースは郷のことを思い、ローラはアレンが言わんとすることを推測する。
「このような犠牲を払ったにも関わらず、魔王を伐つことは叶わず、『真魔大戦』のときのように魔王軍の幹部を封印することもできませんでした。今は魔王の気分次第で再び戦禍が起こるかも知れない危うい時なのです。今、私たちが考えるべきことは、平和を守るということを更に進め、将来確実に攻めてくるであろう魔王と魔族どもを殲滅することではないでしょうか?奴等が攻めてくるのを座して待つのではなく、こちらから仕掛けるのです。」
アレンから感じる気迫がより大きくなる。その双眸が黄金に輝く。聴衆からは「そうだ」「殿下のおっしゃる通り」という声が聞こえてくる。
--え……? こちらから仕掛ける? そんなことしたら……郷のみんなが……
--嘘でしょ? 『
フュースは魔族との戦端が開かれたときの郷の被害を、ローラはアレンの言葉が実現可能かを考えてしまう。
--それに、今の言葉は……、『
父である現国王すら批判するアレンに、ローラはただならぬ危険を感じる。
「それを可能にするために、私は今一層の修練に励みたいと考えております。新入生の皆さんも私と志を共にしてくれるものと信じています。先生方もそのおつもりで私たちへの指導をしていただきたいと願っております。以上をもって新入生代表挨拶と致します。新入生代表アレン・アステリア」
会場の聴衆たちは総立ちになり、拍手を送る。演説に対し、このように振る舞う文化はこの国にはない。にも関わらず、聴衆はそうせざるを得なかった。会場となった講堂は熱に浮かされ、拍手はなかなか収まらず、アレンは満足そうにそれを眺めるのであった……。
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