魔術師は剣姫と舞う
万吉8
第1話 入学式の朝
冒険者学園ヘクトールの入学式の朝、ローラは支給された制服に袖を通し、2階の自室から1階へ向かう。
いつもは身支度は適当に済ますのだが、今日は念入りに腰の辺りまで伸びた黒髪を
ローラはこれだけでその辺の少女たちより美しく見えることを知っていた。
階段を降りると父ヘインズと母マーサがテーブルについてローラを待っていた。
1階は部屋を区切っておらず、居間・厨房・食堂を兼ねている。
父ヘインズは、高い魔力を持ちながら、魔力制御に難があったため、家具職人になった。
家具職人としては優秀で、王都に2階建ての家を構えるほどだ。貴族からも直接注文が来るという。
母マーサはヘインズの従姉妹で、魔術師として各地を巡っていたが、王都を訪れた際に再会したヘインズに拝み倒されて結婚した。
この二人の間に生まれたのがローラと弟のバーニーだ。
バーニーはまだ幼く、テーブル近くの小さなベッドに寝かされている。
ローラは魔術師としての才能の片鱗を見せ、ヘクトールの入学試験では優秀な成績を収め、SSSクラスとなった。
このため、自分にかけられる両親の期待は大きい。
--あんまり大きくても困るのよね…。
食卓についたローラは、いつものパン粥に大好物のチーズが山盛りになっているのを見て、心の中でため息をついた。
◇◆◇
「フュース様、起きて下さい。」
ホテルの一室で侍女のアンナに体をゆすられ、フュースはゆっくりとまぶたを開く。
「アンナぁ、もうちょっと…」
フュースはアンナに甘えた声をあげる。
アンナは幼いときからフュースの面倒を見てきた侍女で、フュースにとっては姉同然の女性だ。
そして、今日を境にヘクトールの寮に入るフュースにとっては、今がアンナに甘える最後の時になるのだ。
「フュース様!入学式に遅れますよ!」
アンナが痺れを切らせて大きな声を出す。この声の大きさもフュースにとって大事なものだ。
「アンナぁ、起こしてぇ…」
フュースは両手を広げて、アンナに抱き起こすようにせがむ。
--しょうがない人ですね。
アンナは苦笑しながらフュースを抱き起こす。フュースの暖かさを感じながら、万感の思いを込めて優しく抱きしめる。
--私の愛しきご主人様。御身の名に恥じぬよう最後のお勤めをさせて頂きましょう。
フュースを抱き起こしたアンナは、フュースの身支度に取り掛かるのだった。
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