運命なんてそこらへんに転がっている

ぐらにゅー島

田中君の場合

「「あっ!」」

 指と指がぶつかった。その綺麗な指先に触れたところは少し暖かくって、僕の鼓動は速まった。

 ふと、その指の持ち主を見るとそれはクラスメイトcだった。名前はまだ知らない。


 僕は今日、本屋さんに好きな漫画の最新刊を買いに来ていた。本当に好きすぎて、クラスの友達に何度も布教したくらいだ。ちなみに最近はあまりの僕の勢いにみんなドン引きである。

 最新刊といったら、発売日の店のオープンと共に買いに行くのがオタクと言うものだ。店舗別の特典もしっかりチェックして、Twitterでどこの店のものがオススメか呟いた。勿論予約もしているが、平積みのものも保存用、布教用、使用用で買い揃えておきたい。僕は朝から自転車で街を駆け抜ける予定だった。


 …だから、こんなラブコメイベントが起きるとは思わないじゃないか。


 正直なところ、クラスメイトの女子名前なんか1人も覚えていない。だって、三次元だし。今本屋で出会った彼女の名前なんか知らないし、顔を見たことがある程度だ。そして、僕はコミュ症だ。

「あ、あああ、あー、」

 どうしよう、言葉が出て来なすぎて意味わかんない声が出てしまった。ここで愛すべきラノベの鈍感系主人公達は「あれ、偶然!もしかして〜さんもこの漫画好きなの?」とか言えるんだろう。アイツらまじでコミュ力高すぎるんだよ。実は基本スペック高いからな?

「えっと…すごい偶然だね!田中君もこの漫画好きなの?」

 少し上ずった声で、クラスメイトcは僕に話しかけてきた。やば、僕の名前知ってるとか絶対僕のこと好きじゃん(棒読み)

「…(こくこくこく)」

  でも、女子怖い。未知の生物だから喋れない。喋ろうと言う意思はあるんだけど、ほら、せんせーが知らない人とは話しちゃダメだっていってたしー?

「実は私も最近ハマっちゃってさー!前回のラストの戦闘シーンの引きがもう微妙なところでさー!」

「まって、めっちゃわかる。」

 同志は大体兄弟みたいなものだ。兄弟となら女子だろうとなんだろうとめっちゃ喋れる。オタク特有の早口と言うものだ。しかもその感想、僕が厨二病丸出しの方の裏垢で書いたのと同じじゃん!この女子…できる!!!

「あ、田中君よかったらこの後暇?語りたいなって思って…。」

 潤んだ瞳を上目遣いにして、彼女は僕にそう言う。

「今世紀最大に暇っすね!」

 勿論嘘だけど、こんなチャンス僕にはもう来ないんでね!ヒャッホウ!

「よかったー!仲良くなれそうで嬉しい!」

 名前は知らないけど、なんか可愛い女子がいて僕は幸せです。

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