第3話 道導
「あらあなたよく入室できたわね? この部屋は普通の人には見つけられないはずなのだけど」
丑三つ時。一見してバーのお店のアイコンであるユーザーが、あなたのタイムラインには存在していないはずなのに、トークルームを開催していたのだった。あなたが見つけたのは見に覚えのない招待が来たからだった。
「私は
夜久がそう言って自己紹介する。あなたは姿を思い出す。歳は未成年にも見えなくなかった。想像とは違う静謐な音声となっていて、あなたは違和感が増してくる。
「もう時間がないわけだけど」
あなたは開始しといて畳むのかと思ってしまう。
「そう、今日はあるかもしれないものね」
夜久が訳知り顔で微笑んだ気がした。
「なんたってあなたはそう、
あなたは驚いた。あなたの迷っていることがわかる訳ないのに。間を置いた夜久が言う。
「なんで知っているか? ですってなんででしょうね」
沈黙が包む。そういえば大手SNSのサービスのはずなのにやけにノイズが入っている。
「いいわ、あなたのその願い叶えてあげる」
夜久が右上の退出について話す。あなたはつられて赤い退出の文字見る。
「でもまだ引き返せるわ。今ならそこの退出を押して話を聴くのを止めれば、盲目で幸せな日常に戻れるはずよ」
あなたは動こうともしなかった。
「何どうしても聴きたいんだって? あなたみたいな怖いもの知らず、私は好きよ。でもあなたはきっと後悔する」
ノイズの音が大きくなる。ノイズの合間を縫って夜久の声が時間が惜しいというばかりにあなたに届く。
「人はなぜ生きるのか、それは遺すためよ。生物だから当たり前。そして人間は遺すものの定義が拡大してしまった。人によってはスパチャで読まれたいなんてのも、影響を遺したいためなのかも知れないわね? ソーシャルネットゲームで重課金して影響を遺したいのかも知れないわ。リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』をご存じかしら。あなたは知っている? それとも知らない? 他人のための行動も遺伝子を遺すという立場からみたら遺伝子の自分勝手なものらしいわ。人は遺伝子に操られた乗り物なのかしら? それとも乗り物でない? あらあら可笑しい。よく分からないわ」
あなたは極論だと思う。
「そう、極端かもしれないわね」
あなたはリスナーであって、スピーカーではないのに反応したことにあなたは驚いた。
「人が生きるには遺すためという目的がある。そう、目的、目的が大事なのよ」
あなたは夜久の話すスピードがいつもより早いことに気づいた。
「政治問題を見てみなさい。左とか右とかどうでもいいの。目的を見るの」
あなたは夜久が何かに焦っているように思えた。
「いいとか悪いとかじゃない。いいとか悪いは、立場を変えれば逆になる。そうではないわ。導き出される結果を見るの」
夜久が矢継ぎ早に語る。
「どちらの立場じゃないの、どちらの立場にも立ったら駄目」
いいわね。世の中にあるのは2つの対立ではないわ。目的と立場を入れた4つの視点で見ないと駄目。と夜久が間をおいた。
「世の中を目的で、その目的が行き着く先を見るの。無料の商品、サービス、その行き着く先は? 1000万円当たりました連絡して下さい。その先は? あなたの選択、行動、発言、その先は?」
沈黙が訪れた。さっきよりもひどいノイズ音が響く。
「答えの出ないものはあるわ。私はある陰謀論者の講演に行ったの。中国人が野次を飛ばしていたわ。なんで聴くのを邪魔するんだ。この人はこんなにも凄い人なんだ。私も何かをしたい……でもねその中国人は誰に雇われているかで話が逆転するわ。講演会の話者とグルだったのか、本当に妨害だったのか未だにどちらが正しいかはわからない。その行為の目的を考えて、誰が得をするかで考えたら、答えは出ないものは確かにあるわ」
「でもその視点があなたを守るのよ」
あなたはどこか遠いところで夜久が叫んでいる気がした。
「アリスト…………目的論……」
あなたは退出しました。と表示が出た。
あなたはすぐユーザーを探したがそこに夜久舞宵の文字はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます