第2話 負の教育
「あらあなたよく再生できたわね? この動画は普通の人には見つけられないはずなのだけど」
再生数0。一見してバーのお店のサムネである動画は、マイリストには存在していないはずの一覧に、追加されていたのだった。あなたが見つけたのは更新ボタンを押してからだった。
「私は
夜久がそう言って自己紹介する。歳は未成年にも見えなくない。動画と合ってなくて、あなたは違和感が増してくる。
「ここには今ペンギンが映っているわけだけど」
あなたは思わずやらかしていると思ってしまう。
「そう、癒やされないかもしれないものね」
夜久が訳知り顔で微笑む。
「なんたってあなたはそう、怖い動画をご所望みたいだから、今すぐ動画を消して眠りたくなるかもしれないものね」
あなたは驚いた。寝る前の状態がわかる訳ないのに、間を置いた夜久が言う。
「なんで知っているか? ですってなんででしょうね」
沈黙が包む。そういえば動画のはずなのに明度は低い。
「いいわ、あなたのその願い叶えてあげる」
夜久がウィンドウの右上を指さした。あなたはつられて×印を見る。
「でもまだ引き返せるわ。今ならそこの×印を押して動画を止めれば、すやすや眠れる日常に戻れるはずよ」
あなたは動こうともしなかった。
「何どうしてもみたいんだって? あなたみたいな怖いもの知らず、私は好きよ。でもあなたはきっと後悔する」
夜久はカメラを回し天井から吊り下げられたテレビを映す。ほこりがつもっていそうなテレビだ。夜久の指がテレビを示していた。
「テレビは偏差値40に向けて作られているそうよ。偏差値というのはそうね偏りを示すものだけれども。頭のいい人から悪い人まで並べてちょうど真ん中の人が偏差値50。あらあら可笑しい。中央値の説明になってしまったわね。その順番で下から大体そうね。下から数えて15%が偏差値40より少ない人かしら」
あなたはより多くの人に見てもらう為だからいいのではと思った。
「アンカーリングというものをご存じかしら。行動経済学の用語なのだけど」
考えに夜久が反応しなかったことにあなたは驚いたが、そうだこれは動画だとあなたは思いなおした。
「提示された基準にひきずられる効果ですって。船の
それとさっきの話とどう繋がるのかとあなたは思う。
「100点をとろうとして80点はとれるかもしれないけれど、80点をとろうとしたら60点になることはないかしら?」
だからさっきの話とどう繋がるのかとあなたは思う。
「なんでこんな話をしているのかですって? なんででしょうね」
「偏差値40にあわせて大量の情報を提示していたら、偏差値50の人は偏差値45になると思わない? 偏差値40の人は38。あらあらどこまで下がるのかしらね? 今の偏差値50は昔の偏差値50と同じなのかしら?」
動画の夜久とあなたは眼があった気がする。
「ねえ、悪貨が良貨を駆逐するって何?」
そう知っているのね? それとも知らない?
そのテロップに何の意味があるのか? とあなたは思う。
「お財布の中にきれいなお金ときたないお金があったらどっちから使うかしら。きたないお金が世の中をまわり、きれいなお金は家で縮こまっているのかしら。お金を人に例えてもいいそうよ。ニュース、バラエティ、映画、ドラマ、アニメ、漫画、小説、それは正の教育? それとも負の教育? 育てられた悪人が善人を駆逐するわよ」
夜久の声から笑いが消える。
「気をつけなさい」
どう? あなたは怖くなったかしら。
「でも、そうね。あなたがもしVTuberになろうと思っているのなら、これ動画のジャンルとして面白くないかしら? そうでもない?」
ふふふと夜久が笑う声がする。あなたは夜久の声を聞いていられず、カーソルを動かす。
「あなたのご所望はこれじゃなかったかしら。じゃあ今日はこれぐらいにしとくわ。 あなたはチャンネル登録をしない。そうでしょ?」
「夢で
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