異世界召喚された勇者という嵐が過ぎ去った後に残されたもの

アルターステラ

プロローグ(前) 暴虐の勇者

この世界は魔王という存在に悩まされているらしい。

私が小一時間前に召喚された時、真っ先にその場の神官たちから魔王討伐をお願いされた。

そして王の間に案内され、王直々に勇者として魔王討伐への資金や装備を用意してやったと言わんばかりに渡された。

けれど、そんな加護や付加のないどこにでもありそうな装備品なんて、あんまり役に立ちそうもなかったから、荷物が増えるだけなので特に必要ないと断った。


魔王の根城はどこかと訪ねると、浮遊要塞とやらにいて、地上からは手出しができないという。


神官たちはなんでも、方々に散らばっている神殿の試練を受けて、宝珠を集め、聖なる加護を完全なものにすることで、魔王に打ち勝つ力を得ることができ、その力があれば浮遊要塞を何とかできて魔王を倒せる、という謎のお告げを信仰しているらしい。


それに、私には転移の魔法があるので、わざわざそんなに回りくどい冒険をして魔王を倒すなんてことはしない。

さっさと解決して元の世界の生活に戻るだけだ。


━━


私は今、黒い岩でできた浮遊要塞の最深部に来ている。


「あなたが魔王なの?」


「キ、キサマ!?

なぜ我の居室に転移できるのだ!?」


この要塞の黒を基調とした内観と、目の前の紫色のオーラをまとった異形の角やトゲを生やした神官服のモンスター。

他の動的反応を全て見通してみたけど、この浮遊要塞と呼ばれていた岩塊の中で、1番強いのがコイツなのよね。

でも、期待はずれかな。


「そりゃアンタの張った結界がしょぼいからでしょ。


それよりも、さっきの質問の答え。

教えてれない?


質問に質問で返すのは、マナーがなってないなって思うんだよね、私」


「人様の居室に断りなく転移する奴に、マナーの説教などする資格はない!」


いや、正論なんだけどコイツ。

でも、コイツが魔王なら話は別だし、私はこの世界では勇者らしいから、魔王の所に殴り込みに行くのは正しいおこないよね?


「で?

答え次第では私の非礼は詫びるけど?」


「ぐぬう。

我こそはが魔王と恐れられる大神官ハー」


「あそ。

じゃあ、さよならね」


「ゴッうがああああああああ!!」


大神官ハー何とかは跡形もなく消え去った。

多分ちりも残さずってやつかな。

弱すぎる。

私の元の世界の魔獣の方がもっと手応えがある。


「さて、用事も済んだことだし、適当な証言相手を捕まえて城へ戻ろうかしら」


バタンッ!


「大神官様!」


「いかがなされましたか!?」


「ガウウルルルー!」


「な、何だ貴様は!!?

大神官様をどうしたのだ!!?」


なんかザコいのがワラワラと4体も出てきたんですけど、四天王ってやつ?

面倒くさ。


「え?大神官?

さっき死んだよ?

で、なに?今度はアンタらが魔王になる?

アンタらも殺っとく?どうする?」


ここで私の強さがわかるやつが1人でもいれば、とりあえずそいつ意外を殺ろう。

そして、その1体に証言してもらおう。

これでOKでしょ。


「キ、キサマ!よくも大神官様をーー!!」


「大神官がキサマのような小娘にやられるわけなかろーーー!」


「グガラアアーーーー!」


「ま、待てお前たち!

その人には我々では勝てない!

待つんだ!」


私はまともそうな1体の隣に転移して、私がいたところに向かっていく3体を見やる。


「ねぇ、アンタはアイツら、どうすればいいと思う?」


私は力をあえて視覚化して、隣のやつに見せつける。


「なっ!?

あなたは一体何者ですか!?」


「質問に質問で返すのは、マナーがなってないわね。

残念だけど、アイツらにはさよならと同じ意味ってことよ」


視覚化した力を3体に向かって解き放つ。


「そんな……私のせいなのですか……?

跡形もなく……消し去ってしまうとは…………」


消えた仲間たちがいた場所を見て、膝を床に落とす。

戦意の喪失には十分だったようね。


「質問よ。

アンタは私が大神官とやらを倒したこと、証言してくれる?」


「……はい。……いたします……」


「OK、じゃあ来なさい」


そいつの首根っこを掴んで、私が召喚された城の広間へと転移する。


「王に謁見を取り継いでもらえるかしら?」


どよめく広間に私の声が響く。


「た、ただいまお取り継ぎ致します」


召使い達が私が掴んできた奴を見て、血相を変えて私に一礼をすると、急に走り始めた。

少し離れたところまで走って行き、別の召使いにも伝言を伝える。

そうして城内の伝令を伝達しているのだろう。


「勇者様、勇者様が戻られました!

王よ!勇者様が謁見をお申し出でございます!

どうか王よ!」


城内のどこに王がいるのかは直ぐにわかる。

あの気配は別格だ。

居場所が割れているのに、一応マナーというか。

部下共から声がかかってから行ってあげようっていう、せめてもの気遣い。

王が伝令の声を聞いたので、単身で王のいるところに転移する。


「な、何じゃ!?」


「聞こえてたでしょ?

私が戻ったと」


よく分からないけど、すごく近くに動的反応が複数あるから、何かの取り込み中かと思っていたけれど。

これは酷い有様ね……正直ドン引きだわ……。


「あ、ああ、すまぬ。

すまぬが広間に居てくれぬか。

ワシにも体裁というものがある」


王はいそいそと服を掴み、身にまといはじめる。


「そうね。

昼間から酒をたらふく飲んで、裸の女、それもアンタよりもかなり若い女の子達をたくさんはべらかすなんて。

なんでも魔王のせいにしているあなたの真実が、国民に知られれば反乱が起こるかもね?」


「ふん。

とるにたらない国民の反乱など、ワシが抑えられぬわけがなかろう。


こんなところに転移してくるとは、さてはキサマも女としてこの王に仕えたいのか?

キサマのような娘ならば、ワシの寵愛を授けてやってもよいのだぞ?」


「そんなものに興味はないわ」


したり顔で私を眺め回す王の視線に虫唾が走る。

ようやく着替えが済んだ。

体裁とやらももういいのよね?

わざわざ待ってあげている私は優しすぎると言ってもお釣りが来そうね。


「心配するでない。

魔王を倒した暁には、たんまりと褒美をやろう。


おう?これはなんと、便利な力よのぉ」


玉座の間に王を転移させる。

ついでに城にいるもの達もあらかた玉座の間へ転移させた。

裸の女性たちには服を着せておいたが、この場に呼ばない方が良かったのかよくわからないわね。


「勇者よ。

城へ立ち寄ったからには何かワシに報告書があるのじゃろう?

ささ、申してみよ」


「コイツが証言する」


私は魔王の手下の生き残りを指差すと、王は明らかに動揺した。

玉座の間もザワついている。

やっぱりコイツは結構名の知れたやつなのかもしれない。


驚きを隠さずに王が口を開く。


「お前は魔王に仕えていたバルムンドではないか!?

では、魔王はどうしたのじゃ!?」


その王の言葉を皮切りに、周りからは裏切り者だの化け物だのとヤジが飛んでくる。


バルムンドと呼ばれた生き残りの1体が口を開く。


「大神官様は……ここにいる勇者殿に打ち倒されました……。

おそらくは、なんの抵抗もできずに一方的に…………」


ねえ、そこまで悲観的な感想は求めていないのだけれど?


ざわめき立つ玉座の間に静かな空白が生まれた。


「ハーゴスがこやつにじゃと?

それはまことか、バルムンド」


王は信じられないとでも言いたげに聞き返した。


「王よ。

我が同胞たちはことごとく、この勇者殿に跡形もなく消し去られた。

我らはこの勇者に打ち勝つことは不可能だ」


「そ、そうであったか……」


王は何故か落胆するかのように椅子に深く腰をかけた。


「それで王様。

私にはやらなくては行けないことが、まだひとつあるんだけど」


「なんじゃ?」


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