第46話 訪問

人間国への訪問日程が決まり、樹はジュリアンナに人間国でのマナーを教えてもらう為に毎日通い続けた。

別の世界で生きてきた樹には、改まった場所でのマナーなどか分からなかったからだ。ここに来てから食事なども自由にしてきた。

王宮にいた時は、ダメな事はテオが全てカバーしてくれたが、人間国へテオは連れていけない。それがわかってから、樹はすぐにジュリアンナへ連絡を取り、挨拶の仕方や、食事マナーを教えてもらっていた。

人間国が樹に興味を示している以上、いかなる場面でも隙を与えてはいけないとジュリアンナも細かく指導してくれた。

その中には言葉使いや言葉の返し方なども含まれていた。

ジュリアンナ曰く、社交場は言葉を使った戦場らしく、その話を聞いていたラルフは苦笑いしながらも、あながち間違いではないと呟きながら、特に女性陣には気をつけた方がいいと言葉を漏らすとジュリアンナに睨まれ、その様子を見た樹は声を出して笑う。

ジュリアンナは、そんな樹を見てため息を吐く。

「心配でたまらないわ。私が付いていければいいんだけど•••いい?決して無理はしない事。ただ気丈に振る舞っていれば、言葉を発しなくてもやり過ごす事ができるの。だから、自分から無理に飛び込む事はしないで。多少傷つく事を言われても平気なふりをして、あとでレイ様に慰めてもらいなさい。

あなたが無事に戻ってくる事をここで祈ってる。形だけとは言え、ここもあなたの家で私達はあなたの保護者よ。帰る場所がある事をわすれないで」

ジュリアンナの言葉に樹は力強く頷く。そして、樹にとって、今まで使った事がない言葉を少し照れながら2人へむける。

「必ず無事に帰ってきます。お母さん、お父さん」

樹のその言葉に驚いた表情を見せた2人だが、すぐに優しい笑顔を作り、双方から優しく抱きしめた。


訪問を明日に控えた午後に、獣人国から王様や使徒団達が到着した。

久しぶりに会えたカルドとマルクに、樹は満面の笑みを浮かべ迎え入れる。

その姿に2人も笑みを浮かべ、樹の手を取る。

「元気にしておったか?樹殿の評判は国にも届いている。よくやってくれた」

カルドの言葉に樹は目を潤ませる。それを見たマルクが優しく頭を撫でる。

「樹殿は泣き虫だな。いずれは僕の義理兄になるのだから、泣き虫は卒業しないとね」

樹は涙を拭いながらハイと返事をして微笑む。

「兄上、樹を泣かせないで下さい。それに、マルク、気安く樹に触るな」

騎士団との話し合いを終えたレイが眉を顰めながら歩いてくる。

その顔を見たカルドはため息を吐き、マルクは呆れ顔をする。

「久しぶりに交わす言葉がそれか?」

「レイ兄、酷すぎます。それに過保護が増したんではないですか?」

2人の言葉に樹は苦笑いをするが、レイはお構いなしにマルクの手を払い、樹の腰に手を回す。

「会ってそうそう私と言葉を交わさず、樹の側に行った2人が悪いんです」

睨みを効かせながら2人に顔を向けるが、すぐに穏やかな表情をして頭を下げる。

「陛下、王子、お久しぶりです。訪問を心待ちにしておりました」

「あぁ、私もだ。ここでの活躍、大義であった」

「ありがとうございます。ルカルド王子は国に残ったんですね」

「私の代わりにな。こやつも補佐で残れといったのだが、そなたに会いたいと聞かなくてな」

「本当はルカルド兄も会いたがってたんだけど、僕が勝ち取った」

自慢げに話すマルクに呆れ顔をみせるも、やはり末弟が可愛いのか、レイはマルクの頭を撫でてやる。マルクは嬉しそうに微笑んだ。

「それよりレイ、人間国より詳しい話を聞けなかったが、何故樹殿まで訪問になったのか、理由をきいているか?表向きはレイの騎士としての仕事ぶりが気に入り、ぜひ、国でゆっくり話が聞きたいと言っておった。その際に樹殿も招待したいと。

私はまだ番を持たぬから、王家の妃代表かとも思ったが、聖女が樹殿を守れと別れ際に意味深な事を告げていたのだ」

カルドの言葉にレイと樹は顔を見合わせ、戸惑いながらも口を開く。

「そちらに訪問する前に聖女から聞いたので、お伝えするべきか悩んでおりました。ここへ戻った際に招待された話を聞きましたが、先に優先すべきは反対派の対処だと判断したので、そちらに目を向けていたら今日まで報告が遅れました」

レイは申し訳ないと言葉を添えて頭を下げた。

それから、話の内容が漏らせない事を告げ、できれば今宵は邸宅に泊まってもらい話がしたいと願い出ると、カルドはすぐにわかったと返事すると、先に会議などを済ませようと提案し、部屋へと向かった。




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