第34話 力になりたい
「樹、人間国の聖女と仲良くなったようだな。使徒の者が聖女の顔が明るくなったと喜んでいたぞ」
夜になり、ベットの上で膝を抱え座っている樹にレイが話しかけてくる。
「レイ・・・」
「・・・どうしたんだ?」
不安そうな樹の顔を見て、レイは樹の側に座り、樹の肩を寄せる。
「ねぇ、レイ」
「なんだ?」
「もし、僕が突然消えたら悲しい?」
「・・・・当たり前だ。何故、そんな事を聞くんだ?」
「・・・何でもない」
口を黙む樹にレイは体を離し、身を屈め樹の目を覗き込む。
「何かあったのか?」
「・・・・・」
「樹、言っただろう?1人思い悩まず、私を頼れと」
「僕も・・・僕も本当は話したいの。でも、言ってもいいのかわからなくて・・」
「聖女に関する事か?」
レイの問いに樹は小く頷く。レイは優しく樹を抱き寄せ、囁く。
「そうだな。聖女の事であれば、話の内容によっては国同士に亀裂が入るかもしれない。だが、樹がそこまで口を黙み思い悩む事であるなら、尚更聞きたい。私は樹が悲しんでいる顔を見るのが辛い。樹には笑っててほしいのだ。
なるべく力になれる様に私も努力するから、話してくれないか?」
樹はその言葉を聞きながら少し考えた後、ポツリポツリと美緒との会話をレイに打ち明け始めた。
「そうか・・・・聖女にそんな事情があったのか」
「美緒さん、とてもいい人なの。それに、婚約者の人の話をする時、とても愛おしそうに、それでいて悲しそうな顔をするの。本当に帰りたいんだと思う。
でも、人間国で聖女として過ごしているなら、人間国も美緒さんを手放したく無いだろうし、戻る方法があるとも言えないし・・・力になってあげたいけど、どうしたらいいのかわからなくて・・・・」
「そうだな・・・木の話は我々の国でもタブーだ。だから、人間国が方法があっても教えないのは、それだけ木の秘密を守りたいのか、聖女を留めて置きたいからなんだろう。私としてもそれだけ想う人がいるのなら帰してあげたいが、聖女1人の問題ではなくなる。それに、この案件が可決しない限り、獣人国で戻る方法があると言っても国へ入る事は叶わない」
「・・・・・うん」
「樹、この件は私に任せてくれないか?とりあえず、明日、樹と一緒に聖女への謁見をお願いしてみる」
「どうするの?」
「解決策を考える前に、一度聖女と会って話がしてみたい。その結果次第で、一度兄と相談して対策を練る」
「王様やレイに迷惑かける事にならない?」
「大丈夫だ。樹が悲しむ結果にならないよう努力する。兄達も樹の事は大切に思っているから、力になってくれるはずだ。それに、何より番を大切に想う獣人だからこそ気持ちがわかるのだ。きっと解決策がある。だから、樹も一緒に考えてくれるか?」
「うん!僕、一生懸命考える!」
レイの腕の中でガッツポーズをする樹が可愛くて、レイは声を出して笑った。
「聖女殿、今日は私の番の為にわがままを言って申し訳なかった」
レイと樹は部屋に訪れた美緒に挨拶をすると、美緒も頭を下げ挨拶を返す。
「いえ。樹様とは仲良くさせて頂いておりますので、これくらい平気です。むしろお力になれて嬉しく思います」
「早速、見て頂きたいのだが、可能か?」
「えぇ。ですが、横になって頂いた方が樹様にご負担がないかと思います」
美緒はそう言って、樹にベットへ寝そべる様に促す。レイは、互いの護衛を外で待つ様に伝え、テオと美緒の使用人には離れた所で待機するように伝える。
樹はお願いしますといい、ベットに寝そべる。
美緒は、その方わらに用意された椅子に腰を下ろしにこりと笑った。
「メガネをかけているから、少し視力が弱いだけかと思っていましたが、夜は全く見えないのですか?」
「はい。灯があればメガネをかけて歩く事はできますが、暗いとメガネをかけても見えません」
「そう。それはとても不便ね。ごめんね。私に治癒能力があると初めに伝えておけば良かったわね」
「いえ、僕が無知なだけです。貴重な力を分けて頂いてありがとうございます」
緊張しているのか、やけに言葉が硬い樹に美緒は微笑む。
「痛い事は何もないわ。ほら、目を閉じて。治療を始めるわよ」
美緒はそう言って、樹の瞼に手を添える。樹も目を閉じ、その手の温もりを感じていた。
しばらくすると、手から暖かい風が吹き目をじんわり温め始めた。
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