第23話 向き合う
「テオっ!」
大きな荷物を抱え、部屋にやってきたテオを見て、樹は歓喜の声を漏らし駆け寄る。
「樹様、大丈夫でしたか?」
「僕もよくわからないんだ。いきなり王様がここでしばらく過ごすように言って、部屋に連れてこられたんだ。何が何だか・・・」
不安そうな顔でテオを見つめる樹に、テオは樹の手を取り優しく撫でる。
「きっと何かご事情があるのでしょう。大丈夫です。王様はとても心優しく頼もしい方です。人間に対しても理解があり、家族愛に溢れています。きっと酷い事は決してしません。それに、レイ様が必ず迎えに行くとおっしゃってました」
「そっか・・・レイがそう言うならここで待ってるよ」
「はい。大丈夫です。きっとそんなに時間はかかりません。あっ、それからレイ様から色々預かってきました」
テオはそばにあった大きなカバンを広げると、その中の物を取り出していく。
「これは樹様の服です。沢山、ご用意下さいました。それから、これは樹様が気に入っていた本、あとおやつ・・・・そうそうコレも」
そう言って紙に包まれた球体を樹の目の前に差し出す。テオがゆっくりと紙を剥がしていくと、それはガラスドームみたいな形をしており、青いガラス球がキラキラと光っていた。
「以前、樹様の世界でこれと似たような物を見かけたのを思い出して、樹様にプレゼントする為に頼んでいたそうです。このガラスに混ぜられたキラキラは星で、この中にいる人形は樹様とお祖母様、隣の動物はレオ様だそうです」
テオの説明を聞きながら樹はそれを手に取り、じっくりと見つめる。
人形の表情はよくわからないが、その人形は髪型も服も似せて作られており、隣には白い小さなライオンがいた。
樹の背中にはリュック、手を繋いだ美代子の服は、美代子が好きな花柄のワンピースでお気に入りだった帽子を被っている。
その後ろを付いて歩くライオン。
その風景は、三人で公園に行ったあの日を思い出させ、樹はいつの間にか涙を流し、そのガラス玉を抱きしめていた。
「テオ、レイにありがとうって伝えて」
「それは樹様の口から伝えてください。レイ様は必ず迎えに来ます」
「うん・・・」
テオの言葉に何度も頷きながら、しばらくの間、思い出に涙していた。
(ガラス玉、泣いて喜んでらっしゃいました)
テオからの手紙を読み、安堵の笑みを溢す。
あれから3日経ったが、未だに樹を迎えに行けないでいた。執着にも似た感情が樹を苦しめるのではないかと思い悩んでいた。
それに、カルドが言った言葉がずっと胸の中にあった。
(恋慕っており、番にして側に置きたい)
その言葉が何度も繰り返し聞こえてくる。
樹の事は可愛いと思っているし、大事にしたい、守りたいと思っている。
それはずっと胸の中にあった想いだ。
それが恋かと聞かれると、正直わからないでいた。それというのも、自分が今まで恋愛などをしてこなかったからだ。
いずれは結婚をしなくてはいけないのはわかっているが、それほど心を寄せる相手もいなかった。
男達に囲まれ、若き頃から前線に立ち戦をしてきた。
騎士団長になり、信頼のできる部下も出来、不満もなく、今ある現状に満足していたから、特に恋愛など必要性も感じていなかった。
来るべき時に政治的な事も踏まえた相手と、ただ一緒になればいいくらいに考えていた・・・あの世界に行くまでは・・・。
樹の世界では今まで自負していた力も出せず、ただの獣としてそこにいることしかできなかった。それが何よりもレイ自身を苦しめた。
だが、民と触れ合う事もなかったレオにとって、樹と美代子、隣人の夫人、ヘルパーなどとの付き合いは、どれも新鮮だった。
互いを助け合い、思い合う。
人間を理解していたと思っていたが、こんなにも情に溢れる生き物だとは知らなかった。
獣人の世界でも仲間意識や家族との繋がりは深いが、人間も似たように繋がっているとは思わなかったのだ。
特に樹と美代子の関係には感銘を受けるばかりだった。
本来なら逆の立場であるべき幼い人間が、祖母のために働き、世話をし、病気と言えど自分の存在を忘れ、子供の様に振る舞う美代子をあんな風に愛情溢れた笑顔で見つめている樹を、心の底から敬愛した。
常に側に寄り添い、美代子の為に笑い、悩み、泣く姿はどれも美しく、時折悲しく、それでも力強く生きる姿だった。
そんな樹をいつの間にか慈しみ、守りたいと思う様になっていた。
ふっと脳裏に一度だけ樹の寝顔が愛おしくて、額にキスをした自分の姿が浮かび上がり、ドクンっと鼓動が大きく跳ねた。
あぁ・・・そうか、これが恋なのか・・・
樹に会いたい・・・そばにいたい・・・樹の匂いに包まれたい・・・温もりを感じたい・・・・いろんな想いが一気にレオの胸の中に湧き上がる。
私は愚か者だ。自分の中の気持ちもわからず、わからないまま、ただただ樹に押し付け、悲しませてしまった。
察して受け止めるなんて言ったくせに、自己中心的な考えを押し付けてしまった。
樹に全てを打ち明けよう。押し付けるのではなく、樹の気持ちにちゃんと寄り添って、その結果がどうであろうとそれを受け止めよう。
私は樹の笑顔が見たい。
できれば誰より側で見ていたいが、それも叶わないのであれば、昔みたいに遠くから樹の幸せを願おう。それでいい。樹が幸せならそれでいい・・・・
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