第10話 時を経て・・・

「団長、盗賊を全て捕らえました」

茶髪の短髪、頭には丸いクマのような耳がついた体格の大きな男が声をかける。

声の先には白髪の背の高い男がいた。頭には少し丸みを帯びた三角の耳がついている。

背後には、先にフサがついた白い尻尾がゆらゆらと揺れていた。

「ご苦労だった。他に何か報告はあるか?」

白髪の男の問いに、茶髪の男が答える。

「それが地下の牢に、囚われていた人間がいました」

「人間?この国に人間がいるのか?」

「はい。人間の国から捕らえてきたのか、鎖に繋がれていました。恐らく人身売買で奴隷にするつもりだったのでしょう」

「バカな事を・・それで、その人間はどこに?」

「それが、言葉がわからないようで声をかけても牢から出ようとしないんです。それに、恐らく目が見えていないのかと・・・」

「目が?」

「はい。呼びかけには反応するんですが、何かを話しながら、こう、宙に手を動かして何かを探しているような身振りをするんです」

茶髪の男は手を前に出し、その人間の真似をする。白髪の男は眉を顰め、その様子を見つめる。

「私が直接見に行こう。案内してくれ」

「はい、こちらです」

案内されながら地下へと降りていくと、牢の前に1人の男が立ち、中にいる人間に話しかけている。

その中からはボソボソとか細い声がする。その声に白髪の男の耳がぴくりと動く。

聞き覚えのあるその声は、助けてくださいと何度も呟いていた。

男は慌てて駆け寄り、牢の番をしていた男からランプを取ると、中にいる人間へと灯りを向ける。そこには部屋の隅で鎖に繋がれ、縮こまっている人の姿があった。

白髪の男はそっと近寄り、人間の姿を灯りで捉えると、その姿に息を呑む。

肩まで伸びた黒髪。大きな目、やつれているが幼さを残した顔立ち。

何もかもが覚えのある姿だった。

「樹殿・・・・」

その声に人間もぴくりと反応する。

「・・・・レイ?レイなの?」

声の主を確かめるように手を伸ばす。その手は小さな動物を探すような低位置で、宙を弄る。

「樹殿・・・私はここだ・・・」

灯りを脇に置き、宙に舞う手を掴むと、樹の体がびくりと跳ねる。

「大丈夫だ、樹殿。私だ。レイだ。今は獅子の姿ではない」

樹を労るように優しく声をかける。樹は掴まれた手を離し、ゆっくりとレイの顔に手を添える。それから、頭の方に動き、耳を触る。

「あぁ・・・レイだ。この可愛い耳はレイだ・・・」

樹は懐かしい感触を触りながら微笑むと、安堵したのかその場で倒れ、意識を失った。


「暖かい・・・」

肌に触れる動物の毛並みに、樹は頬を寄せる。その温もりを確かめるようにそれを撫でていると、ふっと意識を取り戻し目を開ける。

「起きたか」

その声に体を起こし側にいるそれに目を向ける。メガネがないせいか視界がぼやけるが目の前にいるそれは真っ白な毛並みの大きなライオンだった。

怯える表情の樹に、レイはそっと体を離し、目を閉じる。すると、目の前にあったライオンの姿が人の形を彩り、姿を変えた。

頭にある耳と尻尾を除けば、人間そのものだ。

レイは近くにあったローブを羽織り、樹の側によると優しく頭を撫でる。

「私だ。レイだ。これが元の姿なのだ」

レイの言葉に戸惑いながらも、樹はそっと手を伸ばす。レイは目を閉じ、樹が自分の顔を輪郭を確かめる仕草を黙って見守る。

「本当にレイなの?」

「あぁ、私だ」

レイの声に樹は目を潤ませる。レイはそっと樹を抱き寄せ、言葉をかける。

「いろいろ聞きたい事があるが、今は、また会えた事が嬉しい」

「うっ・・・ううっ・・・」

樹はその声と温もりに声を漏らし、涙する。レイは抱きしめた腕に力を込め、安心させるように樹の名前を呼び続けた。

樹は久しぶりに呼ばれる名前に安堵し、更に声をあげて泣いた。

「レイ・・・レイ・・・」

レイにしがみ付き、樹は何度もレイの名前を呼ぶ。

久しぶりに安心する温もりと、懐かしく、心から会いたいと願った声に、樹はただただしがみ付き泣くしかできなかった。

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