第5話 魔荒都市 ダルク・マート Ⅳ


 

 

 地上に上がり、気絶している男の首を折って下に連れてきた。

武器は血液がまき散ると後処理が大変だったから使わずに処理した。

 

「お疲れ様でした、それは私が」

 

「なんだ、重いの運びたくなかったんだろ」

 

ナナシムは血が付いていない、キレイにした手で俺の頭を撫でる。

ニコニコと笑っているが理由は分からない。

だが、こういう時はナナシムの言う事に逆らうとロクな事にならない。

 

「よいしょ、鎖の解除をお願いします。私では無理そうなので」

 

ナナシムが死体を奥の部屋に運んでいる間、俺は鎖の解除に取り掛かった。

よく調べてみるとこれは魔法で作られた鎖で、魔法でしか解除する事の出来ない物だとわかった。

だからナナシムはムリだと言ったのか。

 

「随分複雑だけど」

 

見覚えのある魔法構築だ。

どこで見たのかは覚えていないが、なんだかできそうな気がする。

不安だな、こんな事ならもっと魔法を勉強しておくんだった。

 

しばらく四苦八苦して、力技と運の併用でなんとか鎖を解除した。

本は手のひらサイズでは無いが、両手が必要な程大きい物じゃないからこのまま持っていこう。

 

「お疲れ様でした、一応これを」

 

ナナシムが白い布を持ってきた。


「その本を持って歩くのは危険です、依頼人に届けるまでは隠して持ち歩きましょう」

 

危険?

野盗から取り返した物を持って歩くのは危険?

……ああ、言われてみればそうか、そうだな。

元々私の持ち物だとか因縁付けられてこの都市の人間を敵に回すかもしれないのか。

 

「ったく、俺達は取り返してやっただけなのにな」


「そんな言い方もできますね」

 

変な反応をするなよ、それ以外無いだろ。

 


 帰り道はなんとか人に見られずに行動できた。

道中、この本の中身が少し気になったが、ナナシムから開くのはよすよう言われ、開くのをとどまった。

そして、依頼人の所にたどり着いた。

 

「わぁ、お疲れ様でした! こんなに早いなんて思わなかったです」

 

美人はピョンピョンと跳ね、本に頬をこすりつけている。

美人だからなのか、何をしていても違和感が無い。

あんな子供でもしないような行動も、美人だから素晴らしい物に見えてしまう。

 

「あ、そういえば自己紹介してませんでした。私はダルク、ダルク・マートです」

 

ダルク・マート?

それって、この都市の名前と同じじゃないか。

 

「不思議そうな顔をしてますね。私の祖先がこの都市を築いたんです、だから、祖先の名前が都市の名前になってて……」

 

祖先の話はかなり長く、要点をまとめると。

彼女の一族は同じ名前を名乗るから、都市と名前が一緒なのだと。

だが、特別に権利を持っている訳ではない、普通の一般人らしい。

 

「とにかくありがとうございました。 早かったので報酬は上乗せしちゃいます!」

 

本来の報酬より十枚多く、金貨を貰った。

これは嬉しい誤算だ。

街の物価を見たが、これだけあれば食料一式に灯りの為のオイルも、必要な物は全て揃うだろう。

 

「最後に確認なんですが」

 

「中、見ましたか?」

 

息が詰まる。

間違った答えをしてはいけない。

とにかく、俺の全神経が警戒状態に変わった。

 

「私達はそこにある本を取ってこいと言われただけですので、中身は確認していません。例え間違っていても報酬はお返しできませんが、間違った物でしたか?」


ナナシムがそう回答すると、ダルクから放たれていた圧力は消えた。

 

「ちゃんと目的の物だよ、ありがとー!」

 


ダルクからもう一つ依頼を受けないかと誘われたが、もう金を稼ぐ理由が無い俺達はそれを断り、買い物を済ませた。

 

「早くでましょう」

 

ナナシムが急がせるなんて、ここに来てからやっぱり変だぞ。


俺達はまた、瓦礫と焼け野原の道を歩き始めた。

次の街はなかなか遠いが、これだけ物資があれば何とかなるだろう。

 



 

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