第4話 深夜の散歩とケンサク

 こばんわっ、本屋で働くケンサクでっす。


 今、『タグ・ホラー(女)』ちゃんを探してるんだ。


 深夜になって『タグ・ホラー』ちゃんの仕事が多くなる時間なのに、ペットの散歩に行ったまま、帰ってこないんだよ。


 いつもなら、わりとすぐ帰ってくるのになあ。


 おっ、あの、長い黒髪でネグリジェみたいな白ワンピースは『タグ・ホラー』ちゃんだ!


 どしたの? 『タグ・ホラー』ちゃん。


 なんで空井戸からいどなんか覗き込んでるの?


 き、きみが井戸のそばにいると、まるでさだ……いや、なんでもない……


 えっ、ペットのフクロモモンガの『ダミアン』が、落っこちたの?


 わかったよ。俺が見てみるから、コヨーテの『ジェイソン』と『フレディ』をどかしてよ。


 そいつら、いつも俺の靴をかじろうとするから困るんだよ。


 コアラの『アナベル』もしっかり抱いといてくれよ、そいつも引っ掻くから。


 えっ、そいつら、とか、そいつ、じゃない? この子、だって、プッ……


 わかった、ごめん、ごめんって、叩くな、押すなっ、わぁぁ――――――っ!!


 いてててっ、俺も井戸に落ちちゃったじゃないかよー。


 お、あの隅で目を光らせて震えてるのは『ダミアン』じゃないか?


 おいで。さぁ。


 ぎゃっ、指に噛みつかれたっ。


 で、でも、怒っちゃだめだ、怖がらせちゃだめだ。


 ほら、怖くない。怖くない。ほらね、怖くない。ね。


 おびえていただけなんだよね。


 お、牙をそっと抜いて、嚙んだ指、なめてくれたぞ。


 腕を伝って、首のまわりくるっと回って、俺のふところに入ってきた。


 ん? このシーン、どこかで見たような……ナウシ……ま、いっか。


 おーい『ダミアン』見つかったぞー。


 でも、このままじゃ上がれないから、『タグ・魔法』ちゃんでも呼んできてくれー。


 ふむ、こうしてふところで大人しくしてると、こいつも……いや、この子、もなかなか可愛いな。


 おお、『タグ・魔法』ちゃん、来てくれたか。ここから上げてくれー。


 笑ってないで、上げてくれよ。『タグ・ホラー』ちゃんも言ってるだろ、俺はどうでもいいけど『ダミアン』が一緒だから……って、こらぁっ!


 おおおお、足の下でミミズがたくさん、金色に光ってにょろにょろ伸びて、ぐんぐん上にあがっていくぞ。


 ふうっ、やっと上がれた。けど、なんだか体がべたべたするなあ。


 袖口から、黄色いものがポロポロ落ちるし。


「その馬鹿、天ぷらの衣をまとい金色のミミズで降り立つべし…」って、変な呪文、となえられちゃったからかなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る