毎日本屋に来る彼女は電子書籍派
大道寺司
第1話
高校の授業を終え、一目散に帰路につく。
実家の本屋の店番があるからだ。
田舎にある小さな本屋。人気の漫画の発売日でもなければ、ほとんど客はやって来ない。客がいない間は本が読めるし、ちょっとした小遣い稼ぎになる。
「
「うわっ、来たよ......」
「いい加減、嫌がるの飽きないの?」
彼女は
こいつは毎日のようにやって来るが、うちの本は一切買わない。何を隠そう、彼女は電子書籍派だ。
「たまには本買ってけよ。お客様は歓迎だ」
「荷物が増えるのは嫌いよ。私にはこのタブレット端末があれば問題ないわ」
そう言って左手に抱えていたタブレット端末を自慢げに見せつけてくる。
本買えって言うたびに見せられてもな......
「仕事あるからそれで本読んでろよ。邪魔にならないところでな」
「はーい」
テキトーな返事の後、飯田は電子書籍を読み始めた。
俺も仕事を始める。
十数分後、店内を歩き回っていると、ふと飯田のタブレット端末の画面が視界に入る。ざっと文字を追ってみるとどうやら恋愛本らしい。
「え、お前好きな人でもいんの?」
思わす声に出すと、飯田の肩がビクッと跳ね上がり、ぎこちなく首を回してこちらを向く。
いつもの白く綺麗な肌は真っ赤になっていた。
「な、ななな、何勝手に覗いてんの?」
「あ、ごめん」
飯田は一息ついて、平静を装い始めた。目は水泳選手並みに泳いでいる。
「こ、これは友達に恋愛相談をされたからよ。自分の経験だけで語るのもほら、ね?」
「でもお前、友達いないじゃん」
「ぐはっ」
飯田は何かに刺されたような苦悶の表情で謎の奇声を発して倒れた。
どうやら図星のようだ。こいつは授業中以外は常にご自慢のタブレット端末で本を読み漁っており、俺以外が話しかけてもそっけない態度をとる。放課後は大体ここにいるし、俺の読みは間違ってなかった。そう、本だけにね!
「悪かったって。ほら、俺達友達だろ?」
「え? 友達なの?」
「え?」
これはあれか?
こっちが友達だと思っていたけど向こうは友達と思ってなかった的なやつか?
いや、ないない、それはない。そもそもこっちとしても友達というよりは知り合いって感じだし。
ああ、そうか。友達いなさ過ぎてどこからが友達か分からないパターンだ。
残念な同級生を憐れんでいると、飯田はゆっくりと立ち上がった。
「今日のところはこの位にしておいてあげる」
そう捨て台詞を吐き、飯田は凄まじいスピードで帰っていった。
何かを忘れている気がするが、どうせ明日も来るだろうし、その時にでも思い出すだろうと思った。
次の日、飯田は姿を見せなかった。
うちの本屋どころか学校にも来ていなかった。
何かあったのだろうか。その日はなかなか仕事が手につかなかった。
さらに次の日、飯田は普通に登校していた。
放課後、うちの本屋にも来た。
「文本、来たよ」
いつもの言葉を聞けて安心したのだろうか。思わず顔がほころぶ。
「いらっしゃい」
「今日は嫌がらないのね」
「いや、昨日来なかったからさ。顔見れて安心したっていうか......」
「あー。昨日ね」
飯田は苦笑いしながら目を逸らす。
「昨日何してたんだ?」
「電子書籍読んでたの。今人気の恋愛漫画一気読みしてたら丸一日経ってて」
「は?」
ただのサボりかよ!
心配して損した。
「読みたいと思ったら本屋に来なくても読めるの。電子書籍ならね!」
「うるせぇ」
いつもの日常が戻ったが、前より少し距離が近くなった気がした。
毎日本屋に来る彼女は電子書籍派 大道寺司 @kzr_
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