幽霊少女は夢を見ない

スズト

第1話 ある意味では心霊部

自由ヶ丘じゆうがおか高等学校───

東京都鳴山なりやま区に位置し名前の通り自由を第一とする公立高校である。

高校の北校舎…ほとんど使われていない旧棟の一階の一角に心霊部はあった。



「ギャハハハ!やっぱPUBE面白れー!!」


「おいテメェ支給物資分けろよクソが!!」


「あー金ねぇんだけど」


「だったらいつもの路地裏で学生達から貰おうぜー」


その部室は飲み物や食べ物で散らかりとても授業や部活ができる部屋ではなく言い表すなら、酒を飲んだゴリラを飼っていたんじゃないかと思わせる程酷い部屋だった。

現在その部屋は心霊部でなければゴリラの檻でもなくただのヤンキーの巣窟となっていた。

入学式が行われ新入生も入った4月10日月曜日、古く重い扉を開けて入ってきたのは意外な人物だった。


「…お」


「…あ?」


入ってきたのはミディアムの茶髪で身長165位の女性だった。左腕を骨折しているのかギプスと三角巾で固定している。その後ろからロングの黒髪の身長170位の女性も覗いている。どちらも右手に黒い手袋をしている。おそらく新入生だろう。


「ここが心霊部の部室か…。思ってた以上に汚いねぇ。うわ、そこの机とかほらぁ。なんで逆さになってるの…。」


茶髪の女が教室の後ろの机を指差しながら呆れて言う。


「…まぁある意味心霊部の部室らしいですね…」


黒髪の女が落ち着いた口調で話している内に2人は六人の男に囲まれていた。


「おい…テメェら…ここがどこか分かってんのか?」


「…心霊部の部室と聞いていたのだが…もしかしてアポが必要だったのかな?…生憎、心霊部のポスターが見当たらなかったけど。」


ヤンキーの頭と思われる1人が凄むがそれに全く動じない茶髪の女を見て声を張り上げる。


「ヴァーカ!!心霊部なんてもんがある訳ないだろこのタコ野郎!この部屋はなァ!オレ達スーパー爆雷団の部屋なんだよォ!!」


午後五時の夕陽が照らされる教室を沈黙が支配する。反応に困ったのか先に口を開いたのはヤンキーの方だった。


「見られたもんは仕方ねぇ。おい今持ってる金を置いてけ。それで見逃してやるよ。」


「…見逃してやる?君たちは暴力で私達を支配できると思っているのかい?」


次の瞬間、鮮やかな打撃音を立てて1人の男が乱雑に積み上げられた机に飛ばされた。

男達は一瞬何が起こったのか分からなかったが、黒髪の女が拳を前に突き出しているのを見て状況を理解した。


「てめェ…ふざけやがって!!」


ヤンキーの手にはナイフやバットなどが握られていた。残り五人は戦闘の体勢をとっている。


「おいおいこんな可憐な美少女2人にそんな物騒な物を向けるのかい?こっちは武器だって持ってないんだよ?」


茶髪の女が憐れむような言い方をするが、ヤンキー達には届かなかった。


「知るかよ…!テメェら…!死なねぇ程度にぶっ殺す!!」


──────────────

時は遡り2日前。

4月8日土曜日20:00頃…


「あれ…おかしいなぁ…」


どこで道を間違えたのか、いやそもそも降りる駅が違ったのか、鈴木菜奈すずきななは暗い裏道を迷っていた。


蒼莱そうらい線の…巻坂まきざか駅…は…うん。あってる。…でここの…って現在地あってる?私めっちゃ建物の中めりこんでるんですけど。」


菜奈は茨城に住む高校生である。重度のアニメオタクで限定グッズを買うためにわざわざ東京まで来ていた。


「あーわかんねーていうかここら辺めっちゃ怖いんですけど…もしかして東京って実際こんな感じ?」


その時


グワァァァァ……


「え?」


明らかに猫や犬の類ではない鳴き声がする方に目を走らせると、

そこには真っ黒なスライムのようなあるいは溶けてる人間のようなおぞましい生き物がいた。


「え…え…え何…何これ?え…なんで?…え?」


菜奈は悲鳴をあげることなくその場に座り込んだ。


不快になる鳴き声を発しながら黒い化け物が菜奈に飛びかかる。


その瞬間2人の刀を持った女性が化け物を斬った。

瞬間その化け物は溶けていく。しかしその断末魔が引き金となったのか次々とさっきのと類似した化け物が地面から現れる。


助けに来た茶髪の女性はところどころ穴があいているノースリーブにスカートそして2本の刀を持っている。

黒髪の女性は黒いコートを身につけているがその下にミニスカの黒い制服も着ておりどちらもなんとも言えない格好をしている。


「大丈夫ですか?あなた…早くここから逃げてください。怪我をしますよ。」


と黒髪の女性に言われたので逃げることにした。もう二度と東京には来ない。鈴木菜奈はそう誓いながら全速力で巻坂駅まで走った。


「さて…君は誰かな…という質問をするべきかな?」


茶髪の女性を見た。…灰色がかった刃の刀…奇抜な服装…そして右手の黒い手袋を確認した所で、仲間だと確信した。


「とりあえずお互い敵ではなさそうですし、今はこの湧いてくる敵を倒す事に専念しましょう。」


「了解。後ろは頼んだよ!」


───────────

満月に近い月が浮かぶ山の夜空の下で2人は湧いてきた全ての敵を倒して刀を置き休んでいた。


「ナンパをする訳ではないが…君何歳だい?」


「…15歳です。」


「若いねぇ!…と言いたい所だが残念、私も15だ。来週…いや明後日、高校の入学式がある。」


「明後日…私も高校の入学式があります。…もしかして自由ヶ谷高校ですか?」


寝ていた茶髪の女性が飛び起き嬉しそうに話す。


「おお!奇遇だねぇ。私も自由ヶ谷だよ。高校初めての友達が入学式前にできるなんてめでたい!名前を聞いても?」


「私は雨雲麗華あまぐもれいかです。あなたは…」


弥気凛あまねきりんあまねという字は訓読みだから気をつけてくれ…

いやぁ…しかし」


凛は自分の左腕をさする。さっきの戦いで着地を失敗し左腕を折ったかヒビが入ったか、左腕が使えなくなっているのは麗華の目からみても一目瞭然だった。


「今日のように主を倒さないと無限に出てくる怪異は厄介ですね…もっと戦闘員が欲しい所ですが。」


2人で捌き切るのがやっとの量だった。最終的に麗華が囮となり全ての敵を引き付け、主を凛が倒す。という死と隣り合わせのギリギリの方法で何とか勝てたという具合である。

戦闘員を集める方法を熟考していた凛が話し出す。


「…そうだ。確か自由ヶ谷には心霊部があるとかいうよく分からない噂を聞いたことがある。そこに入って戦闘員を募るっていうのはどうかな?」


「あぁその噂ですか…。正確にはあそこの心霊部はヤンキーの巣窟になっているって噂ですよ。」


「…好都合だ。ヤンキーならそこそこ戦えるだろうし、そういう人達だったらかっこいい言葉を並べればスカウトできそうじゃないか!?」


────────────

時は戻り現在。


「ということで、一緒に私達と一緒に世界の平和を救ってくれないかい!?」


動く片手で手を差し伸べるポーズをとる。


「…もう誰もいませんよ。」


凛と麗華で返り討ちにしたヤンキー達はもうおらず、綺麗とは言えない教室に沈黙と2人が取り残された。


「うーん!とりあえず部活一日目は片付けからいこうか。私は床の掃除をするから机全般は麗華に任せるよ!」


「今は確か体験入部の時期だったはずなんですけどね…。」


こうして2人の掃除がはじまった。

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