人間不信である俺の家によく配達に来る宅配便の姉ちゃんが彼女になった
にゃんちら
プロローグ 人間は裏切る
『人は生きてれば、良いこともあれば悪いこともある』
よくなにか大きな壁にぶちあたった時に聞く言葉である。
しかしそんなのは嘘である。少なくとも俺の人生はそれが嘘であることを証明してきた。
俺の家族は、父、母、俺の3人であった。
父親はジャーナリストをしていて、母親は主婦であった。なんの変哲もないごく普通の家庭であった。
そう…あの時までは。
家庭が崩れ始めたのは、俺が中学2年生の夏。
当時バスケ部のキャプテンになりたてたところであった俺が、夏のサウナのような体育館で練習をしている時、顧問にそっと呼び出された。
「お父さんが亡くなったから、今すぐ病院に行け」
亡くなる。あまり聞かない言葉だったので、俺はとにかく焦って病院に向かった。病室に入ると既に母親とその他の親戚がベットに横たわっている父親を取り囲み、静かに涙を流していた。
俺はベットの近くまで行った。ただ寝ているだけなんだと思ったが、足を触ってみると、冷たかった。
後に死亡理由を聞いたが、いつも通り通勤のため車を運転している時に後ろから故意に追突され、そのまま電柱にぶつかって即死。車は大破した。追突した犯人は、昔父親が記事を書いたことで検挙に至った詐欺集団の元構成員だった。
そこから、母親と俺の2人だけの生活が始まった。
以前は主婦であったが、父親の死をきっかけに働き始めた。そのため家にはほとんどいなかった。
俺も部活が忙しかった。そしてバスケ部のキャプテンをやるのは辛かった。なぜか。一番大きな理由は、俺はバスケはちっとも上手くない。
ただ練習態度が良く、サボらずに真面目に来ていたと言うだけで顧問からご指名をされてキャプテンに抜擢されてしまった。しかしプレイヤースキルがない俺は試合に出ることができず、ただベンチで声援を送るだけだった。
コートの上で魅せるプレーをしながら味方を鼓舞する…。と言うのが俺の中のキャプテン像ではあったが、あまりにも現実と乖離しすぎていた。
それを感じていたのは俺だけでは無く部員も同じで、不満なのかポツポツと辞めて行った。
その姿を見て耐えられなくなった俺は、夏休みが終わり、すぐに退部した。後に聞いた話であるが、俺が辞める前にポツポツと辞めていった部員たちは、俺の退部と同時に再入部したらしい。
「なんだよ…言いたいことがあるなら言えば良いのに」
と俺は思ったが、もはや戻ろうとも思わない。いくら練習しても下手なままの俺が悪いのだ。
バスケ部の部員とは卒業した後も疎遠であった。
高校に入学し、気分も変えようと、俺はバンド部の入部した。男、男、女の3人バンドを組んだ。
最初は順調だった。しかし夏ごろになってくると、段々と俺以外の2人の仲が悪くなり、解散することになってしまった。その際にどちらの側につくのか事になり、俺は両方から綱引きのように引っ張りあいっこされた。
俺は悩みに悩んだが、今後気まずくなる可能性を考慮して、クラスが同じである女の方とバンドを組み直した。
その後、別れた男の方に有る事無い事をネットで愚痴られまくった。
その男がわりかし学年の中心グループにいたので、その噂は瞬く間に広がって、俺の周りには友達が居なくなった。
流石に辛かったので、誰かに相談したかった。しかし母親は夜中まで帰ってこない。その上に毎日ヘトヘトで帰ってくるので、帰ってきた後に重苦しい話をするのは気が引けた。そのため俺はその思いを誰かに打ち明けることはできなかった。
辛かった。周りの人間が全て敵に見えた。
そしてトドメとなったのは、18歳の夏。そう、俺の人生にとって「夏」は決まって悪いことが起きる。
いつもと変わらない日だった。受験期真っ最中だった俺は、図書館で21時ごろまで勉強して、帰ってきた時、いつもはいる筈の母親が居なかった。
最初は仕事が長引いたかなと思い待っていたが、日付を変えても帰ってこない。今まで遅くまで働いてはいたが、帰ってこなかったことはなかったので、驚いた。
しかし翌日、翌々日になっても母親の姿はない。1週間くらい経った時に、「しばらく家を空ける」というメールが来た。
俺は毎日懸命に育ててくれている母親だから、仕方ないと思うと同時に、なんで俺だけこんな目に遭わなければならないのかと、ただ悲しみに暮れた。
その後、父方の祖母に引き取られ、大学生をしていたが、大学卒業と同時に一人暮らしをし始めた。
大学では今まで学んだことを活かして、なるべく人と関わらないで生きていく方法を模索し続けた。
俺はこの調子だと何か集団の中に所属して生活することは不可能だと思っていたので、人と関わらなくても収入を得る必要があった。
最初はブログだ。俺は幼い頃からゲームだけは得意だった、その攻略法を細かく綴った。どこでどう言う動きをするか、アイテムの使い方はここ、とか。
思ったよりPVが取れ、40万ほどの収入を得た月もあったが、時期に流行というものは去っていくので、他のものを考えなければならなかった。
次に始めたのは株式投資だ。最初は10000円から、小口で始めたが、失敗だらけだった。しかしだんだんとコツを掴んできた。
しかしハイリスクハイリターン、場合によってはハイリスクローリターンの投資の仕事は心が疲れ切っている俺にはかなりキツイものだったので、すぐに辞めた。
結局大学を卒業して2年。ブロガーでなんとか食い繋いでいる。収入は決して多くないが、光熱費と家賃、3食ご飯を毎日続けても、数万の貯金が作れるくらいはあった。
俺の今までの人生はこんな感じだ。そしてこれからもこのままであろう。
外は蝉が鳴いている。また今年も「夏」がやってきた。夏は決まって悪いことが起きるのだ。いつも通りであれば。
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