epilogue.

Ⅰ. Oldmen

 暗い部屋の中に調停官は立っていた。

 足元だけが仄かに明るく、部屋の広さがどのくらいなのかも定かではない。

 やや離れたところ、自分を囲うように扇状に人の気配がする。


「報告書は読ませてもらったよ」


 複数の声が代わる代わる語りかけてきた。

 ウロボロス委員会の老人たちである。

 委員会はすべて人間のみで構成された組織だった。

 いくつかの質問が調停官に投げかけられたあと「御苦労だった、もう下がってよい」と言われて質疑は終わった。

 サディは誰にともなく一礼し背を向けた。

 入ってきたドアから明かりが漏れ、出口であることを教えていた。




 調停官が去ったあとも姿を見せないまま老人たちの話は続いていた。


「結果的に減ったのはヴァンパイアふたりにワーウルフひとりか……今度の調停官もうまくやっているようだね」


「ああ、先代に比べると少々頼りなさそうだったがよくやっているよ」


「『双方にそれぞれ戦乱を起こそうとする集団があるようだ』……か」


「なかなか鋭いな」


「そうでなくてはウロボロスの調停官など務まらんよ」


「しかし、賢すぎてもいかん。その集団の糸を引いているのが我々だと気づかれては」


「なあに、争っている本人たちですら気づいていないことだ。夢にも思うまいよ」


「それにしても、まさかサードエルディアスが出て来るとはね……」


「ああ、正直我々の代で御目にかかれるとは思ってもみなかったよ」


「今後はサードエルディアスの出現も想定しておいたほうが良いのかな?」


「そうだな、実際に対処するのは後の世代だとは思うが、考えられるだけの案は出しておこう」


「人間はか弱い、悟られぬようあせらず慎重にやらねばならん……くれぐれも慎重にな」


「そう、無理をすればすべてが水泡に帰する」


「少しずつでいい。奴らの数を減らしていき……そして何世紀かかるかわからないが、いずれは我々人類が『夜の面』も統べて、真の地上の支配者となる……」


「我々が仕組んだ『ウロボロス』の再来だ」


「それまでは、慎重に」


「そう、慎重に……慎重に……」


 声はだんだんと小さくなってゆき、老人たちの気配は消え、部屋はやがて無人となった。

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