ある本屋
今村広樹
本編
夏島は小さな温泉があるのが魅力の離島であるが、この島にはたった1つ本屋がある。
今日はこんなお客さんが来た。
「こんにちは~!あのー……この本ありますか?」
「はい、少々お待ちください」
店員はレジを一度離れ本を取りに行く。
年は店員とあまり変わらないくらいの少女だ。彼女は本屋の袋から一冊の漫画を取り出した。
『恋愛ラブレ』。今話題になっている漫画である。
(そういえばもう新刊出てたのか)
「こちらでよろしいでしょうか?」
店員は漫画を差し出すと、少女は少し驚いたような顔をする。
そしてすぐに笑顔になり
「はい!」
と答えた。
「それでは520円になります」
会計を済ませると、彼女が口を開く。
「あの……私も読んでいいですか?このお話とても面白いですよね……」
「えぇぜひ。ただ売り物ですので汚さないようにお願いしますよ?」
店員は笑いながら答える。
その後少女とはしばらく世間話をし別れた。彼女はどうやら島に転校してきた中学生らしい。
(こんな風に誰かとお話しできるなんていつぶりだろう?)
ただのアルバイトの店員である自分とこうして話をしてくれることが嬉しかった。そんな事を考えながらまた次のお客を待つ。
その日はとても良い一日だったなぁと思う彼であった。
今日はこの店に新しい常連ができたようだ。
いつものようにレジを打ち商品を揃える。
(あ、これはまだあったっけ?……よしある)
彼は珍しく店内にいる女性に声をかける。
「お客様申し訳ございません。この本がまだ棚に入ってなくて……。すぐ取ってきますので」
そう言って売り場へ行こうとした時、彼女が呼び止める。
「いえ大丈夫です!これ下さい!」
「え?しかし先程はまだ棚にあったはずですけど……」
すると彼女も困惑した表情をする。
「はい確かにさっきまではありましたよ。でも欲しいと思ったんです!ダメですか?」
店員は何が何だかわからなくなった。ただ、目の前の女性はこれで良いと言うから仕方ない。
「わかりました」
「ありがとうございます!」
「ふう、今日は珍しくお客さんが来てたなあ」
店のシャッターを閉めながら、店員はつぶやく。
(明日はどうなるんだろう?多分ヒマなんだろうな)
そんなふうに1日は過ぎていく。
ある本屋 今村広樹 @yono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます