第23話 ジーナの心

「はじめまして、ジーナ・オブ・ケニオンと申します。伯爵の娘ですが、城では平民の使用人として仕えておりますので、ジーナと名乗っております。聖女様さえ宜しければ、わたくしが伯爵令嬢である事は内密にして頂けませんでしょうか」


「分かった。内緒ね」


「聖女様にこのようなお願いをして申し訳ありません」


「気にしないで。それより、内緒なら最初から言わなきゃ良いんじゃない? 私、貴族とか平民とかの違い、分かんないよ」


「聖女様に隠し事は出来ませんので……」


ジーナの心を読んだ小百合は、彼女が嘘を言っていない事を理解した。


「ふぅん。あなたも良い人みたいね。私はサユリ。よろしくね。ジーナって呼んでも良い?」


本名を名乗っても問題ないとの記述を見つけた小百合は、色々と悩んだ結果下の名前だけを名乗る事にした。


「もちろんです! サユリ様とお呼びしてもよろしいですか?」


「様付けは要らないんだけどー……まぁ良いか。それでお願い」


「承知しました」


『聖女様が、初めて名乗って下さった?! さすがジーナ!』


『ケネスって、ホントにこの子が好きなのね。この子も、ケネスの事が好きそうだけど……なんか、噛み合ってないわね……。まぁ良いか。この子は敵じゃなさそう。お世話係が男性ってのもちょっと困ってたのよね』


「ねぇケネス、侍女もメイドも要らないんだけど……その、私は半年間はここで暮らすのよね? それなりに着替えとか、身支度とかしたいんだけど……」


「そうですね。えっと……僕もサユリ様とお呼びしてもよろしいですか?」


「良いよ」


『聖女様の信頼をこんなに早く勝ち取るなんて、さすがケネス殿下ですわ!』


『わぁお、ジーナもだいぶケネスが好きみたいね。こんな主従関係見た事ないわー。漫画とかドラマみたい。ヤバい、凄い萌える。この二人を見てられるなら、半年間くらいすぐかも』


「この部屋の物は全てサユリ様のものですから、お好きにお使い下さい。帰還の際、お持ち帰り頂いても構いません。湯浴み等は、お一人でも可能ですが手伝いが欲しければ都度仰って下さい。入浴方法の説明などは、男の僕では色々と問題があるでしょうし、最初だけは侍女に説明をしてもらう予定でした」


「なら、このままジーナに説明して貰っても良い? この子、良い人そうだし」


「は、はい!」


「大丈夫、ケネスの大事なジーナを取ったりしないから」


「そそそ……そんなつもりではっ!」


「え、要らないならジーナを私の侍女にして良い?」


「駄目です! ジーナだけは……駄目です……」


「ごめん、大丈夫。侍女とかメイドとか面倒そうだから要らない。必要な時は、ケネスとジーナが信用出来る人を付けて。嫌なら、交代を頼むのもアリ?」


「もちろんです。だからその……」


「分かってる。ジーナもケネスから離れたくなさそうだし」


「聖女であるサユリ様のご希望は何より優先されます。ですが可能なら……ケネス殿下から離れたくはありません」


涙目で小百合に訴えるジーナの姿を見て、ケネスは胸を押さえている。


『くっ……なにこの子、ちょー可愛い! ケネスが惚れるのも分かるわー! ってか、ケネスの脳内ジーナの事しかないじゃん。……ちょっと可哀想だから、覗くのは遠慮しようかな……これからはケネスの心を読むのはやめよう。ジーナも、ケネスの事ばっか考えてるわね。恋人なのかな? この二人は嫌な感じがないからすっごい楽』


「ねぇ、ケネスとジーナって、恋人同士なの? それとも、夫婦とか?」


「なななっ……なっ……!」


真っ赤な顔で狼狽えるケネスを他所に、ジーナはあっさりと答えた。


「とんでもありません。わたくしは生涯ケネス殿下に忠誠を誓っておりますが、恋人や夫婦ではありませんわ! ケネス殿下には、もっと素晴らしいお方がいらっしゃいますもの! わたくしは夫も恋人もおりませんわ。これからも予定はありません! わたくしは、生涯ケネス殿下にお仕えしますもの」


死んだ魚の目をしたケネスを見て、小百合は二人の関係を正しく理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る