第19話 告げない想い

「あーあ、やっぱり兄様には敵わないな」


ケネスの部屋から戻ったライアンは、デュークと二人きりで話をしていた。


「そうだな」


「どーしたのさ。なんでそんな顔してんの? 良かったじゃん。間違いなくジーナはいい子だよ。兄様に、相応しい」


「ああ、そうだな」


「僕は結局、兄様の役に立ってなかった」


「そんな事ねぇ! 俺はライアンがどれだけケネス殿下の為に動いてたか知ってる! 確かにうまくいかなかった事もある。けど、全て失敗した訳じゃねぇだろ!」


「なんて、さっきまでの僕なら言ってた」


「おい! 俺をからかったのかよ!」


「ははっ、悪い。もう余計な事はしない。過去を後悔するのもなしだ。兄様は僕が馬鹿な事をしてたの、全部ご存知だったんだな。僕は、知られたくなくて、兄様の役に立つ事で贖罪をしてる気になってた」


「だから言ったろ。余計な事しなくても良いって」


「ああ、僕はデュークの忠告も無視してきたんだな。なぁ、頼みがあるんだ。デュークにしか頼めない」


「ん? なんだよ?」


「前みたいに、僕が間違ってると思ったら忠告してくれ」


「いいのか? ライアンは自分で決めたいって言ってただろ?」


「ジーナを見てて思ったんだ。兄様が、羨ましいって。ジーナは当たり前のように、兄様に意見してた。兄様も、ジーナを凄く信頼してる。まるで、兄上とフィリップみたいだった。羨ましいって、思った。認めたくないから言わなかったんだけど、僕は心のどこかで兄様を下に見てた。僕や、兄上が守らなきゃって思ってた」


「……そうだな。知ってた」


「やっぱりデュークは凄いね。デュークは兄様はそんなに弱くない。僕達が守ったりする必要はないって言ってくれたよね。なのに僕は、そうじゃない、余計な事を言うなって言って、デュークに情報だけ与えろって命令したよね」


「昔の我儘っぷりに比べりゃ、可愛いもんだったけど、結構ショックだったな」


「それでもデュークは、僕から離れたりしなかった」


「ジーナ様やフィリップ程じゃねぇけど、俺だってライアンに一生ついていくつもりはあるからな。それに、ライアンならいつか気が付いてくれるって信じてた」


「長いこと待たせてごめん。これからは、僕が間違ってると思ったら遠慮なく言ってくれ。もちろん、デュークの意見をすべて聞く訳じゃない。デュークの意見も、兄上の意見も、兄様の意見も聞いて僕が自分で決める」


「お待ちしてました。今後は心からライアン・ジェームス・ファラー殿下にお仕えします」


デュークは、静かに跪きライアンの手に口付けを落とした。それは、フィリップやジーナと同じく忠誠を誓う儀式。ライアンは驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑った。


「僕は兄上や兄様みたいに凄くない。けど、僕にしか出来ない事は、きっとある。だから、お願い。僕を助けて」


「おう、俺は俺なりにライアンに仕える。離れるつもりはないから安心しな。ジーナ様の仰った通り、適材適所って事で良いんだよ。ライアンは、令嬢の心を射止めるのが得意だな」


「ふん、初めて欲しいと思った人の心は射止められそうにないがな」


「……あの人は、希少種だ。王太子殿下が目を付けるだけある」


「最初はフィリップの妹だからかと思ってたけど、違ったね。兄上は、やっぱり凄い。ねぇ、ジーナって凄く男を見る目があると思わない? それに、とっても可愛い」


「そうだな。ケネス殿下を慕う姿は、とても美しかった。本人はニコラ様の方が可憐だとか言ってたけど、あんな姿を見たら大抵の男は惚れるぜ」


「あんな令嬢、居るんだな……。もっと早く、会いたかった」


「今からだって、遅くないかもしれねぇぜ?」


「ううん、それは駄目。ジーナは、兄様の側じゃないと美しくない。それに……ジーナに手を出したら、きっと兄様は物凄く怒るよ。兄様を怒らせる勇気、ある?」


「ねぇな」


「だから、この想いはここでおしまい。でも、僕だけで抱えるのはちょっとつらかったから……」


「なら、俺も一緒に抱えてやるよ」


「あれ? デュークは妹のニコラが良いんじゃないの?」


「……うるさい。単に憧れてるだけだ。そんな俺ですら、ジーナ様に惚れかけた」


「じゃあ、僕らはお仲間だ」

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