第12話 ジーナは怖い

「兄上! 何故!」


「このままだと話が進まないから。それに、ジーナ嬢が怖いし。ねぇフィリップ、君の妹どうなってんの。怖いんだけど」


「確かにジーナは兄妹の中でも強い方でしたから、怒らせると怖いかもしれませんね。普段は穏やかでおとなしいんですけどね」


「……おとなしい?」


「その顔やめて下さいよ」


「敬語はいいから、いつも通り頼む。俺、ケネスが怒ってるみたいで怖かったんだけど」


「……ケネス殿下も怒ると怖いって言ってたよな?」


「うん。もうヤダ。助けて」


「自業自得だろ。この件だけは助けねぇからな」


「そこをなんとか!」


「ならねぇよ! 完全に予想通りじゃねぇか! これからどうすんだよ!」


「……兄上、予想通りとは?」


「えっと……ねぇ……」


フィリップは口籠るビクターを無視して、ライアンに今までの事情を全て話した。


「なんで言うの?!」


「ライアン殿下に隠そうとしてもバレるに決まってんだろ! 俺が説明してくれてラッキーだと思ってる癖に!」


「……う、バレバレだったかー……って訳でさ、ライアン、協力してよ」


「嫌ですよ」


「わぁお! 断られたの二人目だよ! ジーナ嬢の何が気に入らないのさ!」


「兄上は、フィリップの妹だからと好意的に見過ぎています。あれだけしか話してないんだから、まだ彼女の本性は分かりませんよ。確かに、悪い子ではなさそうでしたけど……」


「単に怖かっただけだよね?!」


「……そ、そんな事ありませんよ!」


ライアンは、兄からそっと目を逸らした。


「なぁ、俺の妹、そんなに怖いか?」


「「怖い!」」


「なんなの、あの目、ケネスにそっくりだよ!」


「分かります! 兄様もジーナの事で怒ってましたよね。兄様が怒ると、結構怖いんですよねー……」


「ケネス殿下も、ジーナも自分の事では怒らねぇんだな」


「「あ」」


「あ、じゃなくて。気がつかなかったのか? ジーナが怒った事があんのは、僅か数回。全部、ニコラが社交で馬鹿にされた時だったぜ」


「う……ごめん、フィリップ」


「なんの謝罪だ」


「……その、ニコラ嬢に……謝罪したい」


「要らねぇよ!」


「けど、俺は勝手に見た目で派手好きだからケネスと合わないと……」


「あってるだろ。確かに、ニコラの見た目はケネス殿下の好みではない。けど、ニコラだって舐められない為に武装してるだけだ」


「そうだよね。ごめん、俺はニコラ嬢の事を他の令嬢と同じだと色眼鏡で見ていた。ジーナ嬢の事だって、勝手にケネスと似合いだと思って、フィリップに無断で罠にかけるような事をした。俺が余計な事をしなければ、ジーナ嬢は罰を受けたりしなくて良かったのに」


「ジーナがケネス殿下に失礼な事したのは事実だから、罰はしょうがねぇよ。ケネス殿下はジーナを救うために色々やって下さるだろう。だからジーナが処刑される事はない。けど、王太子殿下の謝罪は受け取りましたよ」


「う……フィリップ……本当にごめん……」


「そんな顔しないでくれよ。こうなったら半年後まではケネス殿下とジーナには黙っておく方が良いだろ。ビクターの良いところは、間違いを認められる事だと思うぜ。幸い、まだなんとかなる。それに、ジーナは仕える主人を見つけたって喜んでる。半年後に処刑されるとしても笑って死ぬだろう。その覚悟は出来てる。けど、俺は妹を死なせる気はない」


「分かってる。なんとしても現状を変える。ケネスの側に信用出来る子が居るのは大きいんだ。頼む、ジーナ嬢が持って来た情報を俺にも教えてくれ」


「構わねぇけど、こっちも動くぞ。ジーナの命がかかってるんだから」


「ああ、頼む。正式に王家から依頼として報酬も出すから」


「だったら父上を通せ。でないと受けられん」


「分かった。伯爵を呼ぶ。俺の口から全て説明するよ。御息女を利用した事も謝罪したいから。半年したら、ケネスとジーナ嬢にも謝るよ。もちろん、処刑なんてしない」


「兄上、良いのですか? 兄様にバレたらきっと……」


「ケネスは怒るだろうし、俺は嫌われるだろうね。でも、俺の責任だから。俺は焦りすぎてたんだ。ケネスは18、ライアンは17、俺は二十歳だ。誰も婚約者すら居ないなんてまずい。でも、どう調べても妃にしたい女性は居ない」


「そうですね。ちょっと良いなと思っても、兄様の悪口を言ってるのを聞くと……」


「ああ、だったらケネスが真っ先に婚約すれば良いと思ったんだ。そうすれば、周りの目も変わるかなって」


「で、ジーナに目をつけたのか」


「フィリップの性格を考えて、更にいろんな情報を集めた上で彼女しか居ないと思った。ジーナ嬢を選んだのは間違いないと思ってるよ。ケネスの瞳の話を聞いた時、俺は正しいかったと確信した」


「なんですか? それ」


「ジーナ嬢はね、出会った初日にケネスの瞳が王族の証だって言ったんだよ」


「それって……兄様が今日言ってた……」


「そんな良い子、逃したくないじゃない? だからつい、罰だって言ってケネスのメイドにしちゃったの」


「なるほど。でも、僕はまだ信用出来ません」


「好きに調べたら良いじゃないですか。妹を疑われるのは良い気がしませんけど、疑う気持ちも分かります。ビクターが監視を付けるって言ったんなら、どんだけ監視が増えてもジーナは気にしませんよ」


「そこは気にするんじゃないの……?」


「ジーナは今、仕える主人を見つけてハイテンションだ。俺もそうだったけど、しばらくは何してたってご機嫌だぜ。ま、ケネス殿下を貶されたら怒り狂うだろうけど。監視されてても、完全無視してケネス殿下しか見てないと思うぞ」


「それ、なんとか恋愛感情にならない?」


「今のところ、ならねーだろうなぁ……」


「ねぇ、フィリップ、居る?」


兄達が溜息を吐いたところでノックが鳴り、弱々しいケネスの声がした。


「はい。どうぞお入り下さい」

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