もう、魔王やめた! 無職魔王は働かない。~魔王なのに反逆されたので、同じく戦友に裏切られた勇者を仲間にして逆襲する……隠居しながら! ろくでなし魔王の自堕落で騒がしいほのぼのスローライフ!?~
第121話 開店! クラーケンのタコ焼き屋さん!
第121話 開店! クラーケンのタコ焼き屋さん!
「絵面やっばっ! フール! おまはん、娼婦と用心棒を従えたマフィアのボスみたいになっとるでっ!」
「まいったな。隠しているというのに、天性の偉大さが醸し出されちゃってる感じ?」
「ほな、今からみんなに仕事の説明するよっ!」
は? なんで話を広げないの?
「これが、今日のご主人様のご主人様?」
「かわいいーっ! ロリエルフだーっ!」
「ちっこいーっ! ふにふにしてるーっ!」
はしゃぎだした女奴隷どもに、メイがもみくちゃにされる。
「ちょっ、やめーや! かわいがらんで、ええねんっ!」
ガキに見つかった犬猫みたいな扱いを受けるメイだった。
「今日は、『魔女祭』や! 普段はスナックをやっているうちも、出店を出すっ!」
魔女祭――パンドラを建国した『始祖の魔女パンドラ』を讃える祭典だ。
そんなことは、さておき。
パンドラという国は、表向きは国王を頂点にした王制国家なのだが……実は、『魔女』という悪辣な女どもに裏から操られている傀儡国家だ。
だから、魔女祭の出店でクジを引いても当たりが入ってないとか、タコ焼きにタコが入っていないとか、綿あめがほぼ空気とか、射的は当てても的が倒れないとか、おつりをごまかされるとか――等々の物議を醸す行為が、さも当然のように行われる。
なぜならば、『魔女は、日常を嫌な感じにする類の邪悪』だからだ!
「ま、んなことどーでもいいや。仕事も終わったし、帰って寝よう」
「なんでやねん!? 今からが、『本当の仕事』やっ!」
やだなぁ、もうキレてる……。
今日も今日とて、強制労働か……とほほのほ。
「で、なにを出すんだ? 昼間っからスナックで酒飲ますのか?」
「なんでやねん!? この前、獲った『クラーケンのタコ焼き』や!」
「タコ焼き? あの巨大クラーケンを丸ごと一匹焼くのかっ!?」
アンジェが目を輝かせてはしゃぐ。
こいつもなぜか、露出多めのメイド服を着ていた。
馬鹿面だが黙っていれば美人だし、乳とケツがデカくて手足が長いからこういう服を着せると様になる。
「『タコ焼き』ちゅーのは、タコを素焼きするんやのぉて、パンドラなら誰でも知っとる、と~っても有名なお料理や。出汁と小麦粉と生地のなかにタコを入れて、丸い窪みのついた鉄板で焼くねんよ」
「どゆことなのだ? 丸い窪みで焼く?」
「言葉で言われてもわからんだろうから、作ってやれよ。奴隷たちも、自分が扱う商品を知っておいた方がいいだろうしな」
俺が最適な助言をしてやると、メイが屋台で料理を始めた。
「そらそやな。うちがあんたらに、メイちゃん特製のタコ焼きを食べさせたるわっ!」
まず、小麦粉を出汁と卵で溶いた生地に、みじん切りにした紅しょうやらネギなどの具を入れて混ぜる。
「半球状の窪みがいっぱいある特殊鉄板『タコ焼き器』を火にかけて加熱し、窪みに油を塗って、生地がこびりつかないようにする」
熱せられた鉄板の上に、タコ焼きの生地をたらすと、ジューっと焼ける音がする。
「だし汁で溶いた小麦粉に薬味を加えた生地を、たこ焼き器の窪みに流し込んで、タコを窪みのひとつひとつにぽいぽいって入れてくんや。タコは大きすぎても小さすぎてもダメや。小さいと悲しいし損した気分やし、大きいと嬉しいけど食べづらいからね。なにごとも、ええ塩梅でないとあかんのや」
しばらく生地を加熱をして、たこ焼き器と接する面がカリッと焼けたら、先の尖った錐を窪みの表面に差し込んで、窪みの周囲に沿って器用に一周させて剥がす。
「窪みのなかでひとつひとつの生地を上下反転させてやって、ま~るい球形に焼き上げる。恐れず、焦らず、躊躇わず、ちゃちゃっとひっくり返して、丸い生地のなかに空洞を作るのが食感良く仕上げるコツや!」
香ばしい匂いがして焼きあがったら、錐で刺すように掻き上げて、容器に移す。
「焼きたてをきれいに並べてやったら、メイちゃん特製のダシ入りちょい甘ソースをたっぷり塗って、削り節や青ノリなんかの薬味ぱらぱら~、最後にマヨネーズをしゃしゃーっとやって、できあがりやっ!」
メイが手早くタコ焼きを作った。
ガサツで暴力的な性格に反して、料理だけは丁寧にこなす器用な娘だ。
「こんがり焼けた出汁入り生地の香ばしさ! 噛むたびに旨味が出てくるタコ! 特製ソースの甘辛さとマヨネーズのすっぱさが口のなかでお祭り騒ぎをして、食欲を焚きつけるのだっ!」
アンジェめ、もう食ってやがる……そして、恒例の食レポ。
「おい、もっと詳しく食レポしてみろよ。今日は祭りだぞ」
「あつあつながらもフワッと柔らかなタコ焼きをパクっと口に入れて、一口噛むと……カリカリの生地からトロリとした生地が溢れ出す! さらに一口齧れば、コリコリとしたタコが、ダシの海からお出迎え! そして、スミの代わりに旨味たっぷりの肉汁を吹き出す! さらに、紅しょうがとネギが香味を効かせて、タコのお祭り騒ぎに便乗し、ソースとマヨネーズをまとって踊り出す! お腹も心も満足なのだーっ!」
げぇーっ! 無茶ぶりに即座に対応してくるのが、うぜェッ!
「小麦粉の生地に出汁とタコを入れて焼いただけのもんやけど、もっちりふわふわの生地の食感とぷりぷりのタコの弾力、それに合わさるソースの香ばしさが、絶妙な合わせ技で、やたらとおいしいねんな」
「お祭り気分だから、なんでもうまく感じるだけだろ?」
「じゃかましや! メイちゃんが、心を込めて作るからおいしいんやっ!」
などと言って、メイは次々にタコ焼きを焼いていく。
「ん~っ! あつあつふわとろで、おいしーっ!」
「ちっちゃいご主人様は、料理上手なのね」
「今日のご主人様は、大当たりっ!」
「ほう! こいつはうまいな!」
「……うまい」
借りてきた奴隷どもも、メイのタコ焼きをうまそうに食っている。
「お世辞抜きで夢中で食っているから、本当にうまいんだろうね。よかったね、メイちゃん」
言ってやるなり、メイが得意げにふふんと鼻を鳴らした。
「今日は、年に一度の『魔女祭』や! これだけやないでっ! 本番はこれや! うちらが仕留めた『巨大クラーケン』を具にする巨大タコ焼きやーっ!」
「「「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」」」
メイが巨大クラーケンをクソデカ包丁で叩き切る!
「せっかちなパンドラ人が並んででも食べたがるメイちゃんのタコ焼き……」
勢いそのまま! やたらとデカい鉄板でタコ焼きを作り出したッ!
「それを今日は、お祭り気分でむっちゃ巨大にしたったでーっ!」
「「「でっかああああああああああああああああああああああああああいっ!」」」
通常のタコが一匹まるごと入るぐらいでけぇタコ焼きだッ!
「もはや、言葉はいらない! デカくて、うまいのだーっ!」
「わははは! これでいっぱい稼ぐでーっ!」
そんなわけで、魔女祭が始まった。
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