第113話 お土産持って帰港!

 仕事を終えて港に帰った俺たちは、歓声を持って迎えられた。


「お前らぁぁぁーッ! デッケータコ獲ってきたぞおおおおおおおおおおおおッ!」


 アルアルの漁船が、クソデカクラーケンを引っ張って漁港に入港するなり、どこからともなく漁師どもがわらわらと群がってきた。


「なんじゃあ、このデカさ!? ここ十年で、一番デッケェクラーケンだァーッ!」

「わははは! 街のみんなで食えるぐらいデケェぜ!」

「こいつぁ、運がいい! 『魔女祭』の前に、いいもんが手に入ったなッ!」

「俺たち漁師の『今年の魔女姫様への捧げもの』は、これに決定だぜッ!」


 茹で上がったクラーケンを見た漁師および地元民が、大はしゃぎしている。


「フールのおかげで、港のみんなが大喜びやんっ!」

「くそみたいな仕事に駆り出されたが、思いがけずいい仕事をしたようだな」


 そこら辺の凡愚どもと違って、無職と言えどもひとたび働けば、たちまちのうちに類稀なる功績を作り出しちゃう偉大なる魔王様ってワケ!


「どや? 働くって、素晴らしいことやと思わへん?」

「いや、全然」

「なんでやねんっ!? みんなの笑顔を作った労働に意味を見い出さんかいっ!」


 それはそれ。これはこれ。


「労働に嫌悪以外の意味など見出せるか」

「なにぃっ!?」


「俺は普通に働くわけではなく、一歩間違えれば死んでいた『超危険漁業』に従事していたのだ。あんなもんを経験して、労働の素晴らしさを得ることはできん」

「ま……まぁ、それは確かにやな」


 さすがのメイも、自分が死にかけただけあってか、これには反論のしようがないみたいだ。


「最初は、ただの漁のはずだったのに……あれよあれよと、人喰い鮫退治になり、私を狙う刺客との激闘になり、最後は巨大クラーケン退治……とんでもない仕事だったのだっ!」


「確かに、ほんま滅茶苦茶やったなぁ……うちはクラーケンに捕まるし、そのうえ、もう少しで『茹でメイちゃん』になるところやったわ」


 小娘ども思うところがあるのだろう。

 二人とも、かなり疲れ切った顔をしている。


「メイちゃんはこれに懲りて、この俺に二度と労働などさせないようになってほしいものだね」

「なんでやねんっ!? 懲りるも何も、お前のせいで茹で上がるところやったんやぞっ! お前がちゃんとうちを助けてれば、なんの問題もなかったんじゃっ!」


「それはそれとして!」


 怒られが発生したから、話題を変える。


「この巨大タコを売りさばけば、半年ぐらい働かないで済むんじゃないのかいっ!?」


 夢が膨らむねっ!


「フールさん! お別れの前に、最後に良いッスか?」

「なんだい、マーガレットちゃん?」


 ま、まさか……突然の告白っ!?


「自分、フールさんが『メイちゃんに寄生する極悪無職』だって聞いてたから、正直まったく期待してなかったというか、そんなやつと一緒の船に乗りたくなかったんスけど……」


「あ、あぅぅ……」


 恋のから騒ぎどころか、マーガレットちゃんから意外な差別を受けていたことを知って、俺は泣いた。


「自分が間違ってたッス! フールさんは、すごい人だったッス!」


 でも、見直してくれたからいいよ!


「てやんでい! お前は、『いい無職』だったみたいだなっ!」

「無職に良いも悪いもねぇよ」

「そうだな! 職があるか、ないかだけだなッ! わははは!」


 角刈り漁師は、何を笑ってんねん?


「もういい、俺は帰る。疲れた」


 仕事も終わったし、ひと夏の恋も終わったし、これ以上ここに用はない。

 仕事が終わったら速やかに帰宅――これぞ、正しき勤労者の姿勢よ。


「「フーーーーーーーーーーーールくーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」」


 帰り際、漁師親子に呼び止められた。


「「また会おうねえええええええええ! さようならああああああああああっ!」」


 また会おうね――か。


 もはや、すっかり魔王ではなく、『ただの無職のあんちゃん』扱い。


 フン……。

 なんだかんだで、世俗での隠居生活が板について来たのかな。


「ああ。またな」


「「まったねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」」


 メイとアンジェが大声で手を振った。

 俺の真横でッ!


「うるせぇッ!」




第2部 第3章 海だ! 人喰い鮫とクラーケンだァーッ!? 


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