第98話 タダ働きはしてはいけない

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 俺はブチキレていた。


「どういうことだ、クソジジイ!? 死ぬ思いをして仕事をしたのに、『報酬が出ない』だとォーッ!? 理由を説明しろォォォーッ!」


「今回の魔獣討伐は、国民の義務・『有事における無償の奉仕活動』だ。報酬など出るわけないじゃろ?」


 ジジイがふてぶてしい顔で、舐めたことを抜かしてくる。


「ふざけんなッ! この俺が屍胎骸を滅していなければ、貴様らは全員、腐った血肉と糞便をまき散らして徘徊する死体になっていたのだぞッ!? そんなかわいそーな貴様らを憐れんだこの俺が、命を懸けて戦い! そして、貴様らの命を救ってやったというのにッ! その対価を払わないつってんのかァァァーッ!?」


「たまに働いたからといって、大げさに手柄を誇示するな。自意識過剰な無職め」


 くぅぉんの~……邪悪な老害めぇぇぇ~ッ!


「強制労働させただけでは飽き足らず、無償労働までさせるつもりかッ!? そんな傍若無人な邪知暴虐が、まかり通ってたまるかァァァーッ!」


「人聞きの悪いことを言うな。そもそも、お前は『魔獣を討伐していない』のではないかぁ~? お前の本来の仕事は、『魔獣の討伐』……だが、『それをやったのは、アンジェちゃん』だという報告を受けておるぞ?」


「あいつは、手柄を横取りしてトドメを刺しだけだッ!」

「ほ~ん」


 ジジイが呑気に爪を切り始めた。ふざけやがってぇ~!


「魔獣を仕留めたのも、屍胎骸を葬ったのも、すべてが俺だッ! 魔獣などよりも数億倍危険な存在から、貴様らを守ってやったのだぞッ!」

「わしは、そんなことをしろとは一言も言っておらん。お前が勝手にやったことなのに、恩を売って来るな」


「なにっ!?」

「そもそも、勝手なことをして罰せられないだけ、感謝しろッッ!」


 こ……このゴミクズがァァァーッ!

 俺の親切を足蹴に……いや、命を救われておいて、なんちゅー言い草だッ!

 百万回発狂させてから存在ごと消し去ってくれようかァァァァァァーッ!


「山で魔獣が暴れていたのは、屍胎骸が垂れ流してる黒い血が原因だ。俺が屍胎骸を倒さねば、今頃は『パンドラが、屍胎骸に寄生された魔獣で溢れかえっていた』のだぞッ! このボケナスがァーッ!」


「そんなもんは、お前のしょーもない決めつけじゃ。真実は、これから調査してわかる話……知った風な口を利くなァーッ!」


 うぜェッ!


「金を寄越せええええええええええええええええええええええええええええッ!」

「金はやらああああああああああああああああああああああああああああんッッ!」


 人目もはばからずぶっ殺してやろうか!? この恩知らず性悪クソジジイ!


「ち、ちきしょう……! 親切が無下にされたことよりも……こんなクズ野郎を助けてしまった己の迂闊さに腹が立つッ!」


「フール、落ち着いてぇな。今回は『清く正しい人助け』ってことで、あんま気ぃ悪くせんといてよ、ね?」


 性悪ジジイに続いて、性悪孫娘が絡んできた。


「メイ……正気か? お前が『働いてこい』っつーから、仕事をする暇もないぐらいクソ忙しいにもかかわらず働きに来てやったというのに、金が貰えないのだぞ……?」

「寸借詐欺師に憐れまれるぐらい暇しとったやんけ。嘘つかんでよろしねん」


「嘘ではない。お前のジジイに『金はやらん』って言われたんだよッ!」

「ああ、そっちの話ね。はいはい」


 なんだ、その態度!? 舐め腐りやがって!


「お金なんてよろしわ。人助けもできたし、たまには『タダ働き』もええやないの」

「よくないだろ! 金が貰えないなら、そもそも働く意味も必要もねぇじゃねぇか!」


「いろんな人と一緒にやるお仕事を通して、地域住人として『社会に参加すること』が大事なんや。世の中、時にはお金よりも大事なことがあるんやで」


 したり顔をするメイが、意味わからんことを言ってなだめてくる。


「そうだね、メイちゃん。どんなに邪悪で残酷で意地悪なことをされても、『まぁまぁ』で済ませよっか! そうすれば、この世から争いはなくなって、誰しもが手と手を取りあって笑顔で生きていけるもんねっ!」


「そうや! たまには、ええこと言うやないのっ! みんなと一緒に汗をかいて労働をすることで、フールもやっと『真っ当な社会人』になってくれたんやねっ!」


 嬉しそうにはしゃぐメイが、俺にじゃれついてくる。


「そんなことになるか……このぶぅわかたれがァァァーッ!」

「ひぃっ!」


 恥を知らないクソゴミ一族がァーッ!


「貴様ァッ! 孫を怯えさせるなァァァーッ!」

「恩も恥も知らないクソジジイ……貴様は、問答無用で殺すッ!」


 二人とも見捨てるべきだったッ!


「この俺が身を挺して守ってやらねば、愚昧で惰弱なお前らジジイと孫は、『あの化け物に殺されていた』んだぞッ!? わかってんのかッ!?」

「そんな大げさに言わんで、よろしいねん。フールはいつも、おおげさや」


「おおげさちゃうわ! お前ら邪悪で卑怯で凶暴なジジイとその孫娘は、一歩間違えば死ぬような危険な戦いをッ! こともあろうに、この俺にやらせたのだぞッ! それは、この俺に『死ね』と言ったのと同じ意味だろうがァーッ!」


「そんなつもりは、ないって! だいたい、あれは仕事やん……?」

「仕事だからって言えば、なにさせてもいいわけじゃねぇんだよォーッ!」


 正論を叩きつけてやると、イキっていたメイがしゅんとして、反省したかのようなそぶりを見せた。


「うぅ……そう言われたら、そうやったかもね……ご、ごめんよ」


 が、それも束の間――。


「フール! うちのために働いてくれて、ありがとうっ! よく頑張ったねっ!」


 突然の満面の笑顔で、俺の仕事ぶりを労ってきた。

 純真可憐で無垢なる少女の笑顔には、さしもの俺も思わず――。


「その一言で、仕事の苦労なんて一発で吹き飛ぶなっ!」

「えへへ!」


 などと――。


「言うか、ぼけなすがァーッ! ちんちくりんのガキのくせに、女を利用するなァッ!」

「ひぃっ!」


「ごく潰しィーッ! 孫を怯えさせるなと言っとるじゃろうがァァァッ!」


 ダメだ。

 ムカッ腹が立って、イライラが止まらんッ!


「ぬぅわ~にが、無償の奉仕活動じゃい! 金がなきゃなァッ! 服も食い物も住むところもなくなるし、友達もいなくなるし、夢も希望も未来もなくなるんだよォーッ!」

「だから、おおげさやねん! たった一回、タダ働きしただけやろっ!」


 このクソガキが、口答えしやがってッ! どういうつもりだッ!?


「はあああ~っ!? そもそも、お前が、この『俺に金を稼がせるために無理矢理させた仕事』だろうがッ!? タダ働きなど許されるかああああああああああああーッ!」

「黙れ、ごく潰しがァッ! 清く正しい仕事に金など求めるなァーッ!」


 人の道に背くメイを叱りつけていたら、横からジジイがしゃしゃり出てきた。


「うるせぇッ! 金がなきゃ、飯が喰えねぇだろうがァーッ!」

「じゃかしゃあッ! 仕事を通して集まる『ありがとう』を喰えッッッ!」

「ぬぅわぁ~にが、ありがとうを喰えだッ!」


 頭の湧いているジジイの金玉をッ!


「これでも喰らえええええええええええええええええええええええええええーッ!」


 思いっきり! 蹴り飛ばすーッ!


「んぼぶるぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」


 ジジイ、悶絶ーッ!


「わはは! ざまぁねぇなァッ!」

「ああーっ!? おじいはんーっ!」


 地面を転がって悶絶するジジイに、メイが血相変えて駆け寄る。


「こらぁっ、フール! なにしとんねんっ! 老人に暴力を振るうなーっ!」

「嗚呼。太陽の下、人は労苦するが……すべての労苦が何になろう? 太陽の下に起こることをすべて見極めたが……見よ、どれもみな空しく、風を追うがごとしよ」


 股間を両手で押えてのたうち回るジジイに、トドメの蹴りを叩き込む。


「ご……ごく潰し……こ、ころ……グハッ!」


 それから、慰謝料および迷惑料・加えて帰りの飯代として、ジジイの財布を徴収する。


「フール、やめーや! お前は、やりすぎやねんっ! 何考えとんじゃあーっ!?」

「嗚呼……なんて空しいのだ。愚かで邪悪な他人に振り回され、貴重な人生を丸一日も無駄にしてしまった……並みの男なら泣いている場面だよ」


 これだから、仕事なんてしたくねーんだ。

 人生の虚しさをより強く感じちまう。


「人の話を聞けっ! この馬鹿たれっ! すぐに暴力を振うなあーっ!」

「奥ゆかしいメイちゃん、どうか怒らないでおくれ? フール君は、危険な仕事のやりすぎで頭がおかしくなってしまったのだ」

「仕事のやりすぎって、数か月ぶりにちょっと働いただけやろっ!」


 メイがよくわかんないことを言ってくるので、無視する。


「まったく……なんで、こんな馬鹿なことをしているのかが、皆目見当がつかん。こうやって、かくも空しく寿命を浪費して、死に向かっていくのか……」


 労働にまつわるすべてが、恐ろしく空しく、そして虚ろだ。

 これ以上、付き合いきれん。


「帰りに銭湯によって、飲み屋で財布が空になるまで豪遊しよう」


 せめてもの慰謝料として徴収したジジイの財布を手にして、涙ぽろりで帰路に着く魔王様だった。


「フールっ! なにが、銭湯だーっ! まず謝れええええええええええええーっ!」


 仕事が終わって、もう『完全なる他人』と化したというのに……アンジェが気安く話しかけてくる。

 仕事での関係は、外に持ち出さないでほしいなぁ。


「はいはい。ごめんね。そして、着崩れた服を直しなさい」

「なんだ、そのまったく反省してない態度と謝罪はっ!? このセクハラ無礼者がっ!」


 なんで、こいつにも説教されねばならんのだ。


「うるせぇ! 文句なら神獣に言え! 俺は家に帰るんだ、邪魔をするなッ!」


「私も一緒に帰るぞっ! フール! 私を殺しかけた罪および、神獣を使った卑劣なセクハラを働いた罪の慰謝料と迷惑料を合わせて、ごはんをおごるのだぁぁぁーっ!」


 ああ~。ほんと疲れちゃうことばっか。

 いったいいつになったら、まともな隠居生活が送れることやら。


「とほほ。仕事はもうこりごりだよ」




第2部 第2章 山だ! 魔獣だ! 狩りわっしょい!



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