本屋の少女
黒姫百合
第1話 酒井書店の酒井さん
桐島遥は本が大好きだ。
毎日図書館に通ったり、本屋に通うほどに大好きだ。
遥の家の近くには個人経営をしている小さな本屋、酒井書店がある。
欲しい新刊などはそこで買うほど御贔屓になっている。
今日も面白い本屋がないかと、学校帰りに酒井書店に寄る。
「……今日は……いた」
カウンターの方を見ると、今日も一人の女子高生が店番をしていた。
酒井京子。
遥のクラスメイトだ。
お互い、高校生になったばかりで近所だったのにも関わらず、同じクラスになったことすらなかった。
まさか高校が同じどころか、初めてのクラスメイト。
ただの店員さんだった少女が、クラスメイトに昇格したのだ。
どう反応すれば良いのか分からない。
遥は自分から話しかけるような陽キャな女の子ではなかったし、京子も遥と同じように自分から話しかけるタイプではない。
酒井書店は小さな書店なので、ほとんどお客さんは来ない。
そのため、今店内にいるのは遥と京子の二人っきりだ。
京子はなにやら本を読んでいる。
カバーを見る限り漫画やライトノベルのようなものではなく、純文学のような難しい本のようだ。
今までただの店員としか意識していなかったが、クラスメイトになった瞬間意識してしまう。
来た時、挨拶ぐらいした方が良かったのではないか。
そもそも書店で何度も会っているのだから学校でも話しかければ良かったのではないか。
遥は本を選びながら悶々と考えていた。
「……今日は買っていなかないの」
誰かに話しかけられた。
ここでもう一度言うが、酒井書店は小さな本屋で今は遥と京子しかいない。
もちろん、話しかけてきたのは京子だった。
「えーっと、今探してる途中。面白そうな本があったら買っていく」
「そうなんだ。誰もいないからゆっくりしていってね」
「あっ、うん」
それだけを残し京子はまたカウンター内に戻っていく。
三十分後。
特に面白そうな本がなかったので、遥は帰ることに決めた。
「酒井さん」
「どうしたの」
「どうして今日は私に話しかけてきたの」
今まで京子から話しかけられたことがなかった遥は疑問を素直にぶつける。
「本好きなクラスメイト、桐島さんぐらいしかいないし。私も本好きだから、桐島さんと話してみたくなったから」
顔を赤く染めながら目を背ける京子。
照れ隠しだった。
この表情は知ってる。
同じ同志を見つけたのは良いものの、どうアプローチをしたら分からない表情だ。
「私も本好きな酒井さんと話してみたかった。これからも、学校でもよろしくね酒井さん」
「えぇ、よろしく桐島さん」
これが二人の馴れ初めだった。
本屋の少女 黒姫百合 @kurohimeyuri
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