[05]好奇心は猫をも殺す

 軽く人間不信に陥ったFでーす。……嘘だけど。

 ま、取り敢えず、まゆりのことは忘れました。本当に失踪したかどうかわからないし、本当に失踪したのだとしたら私にはなにもできない。関わるつもりもない。

 あのメールもからかいの範疇なら、それはそれで……ということで。

 ちなみに<佐倉さん>は退会していました。最後に何度も”お母さんが! お母さんが!”というメールを送ってくれましたが、私は返信していません。

 もう見ていないかもしれませんが、佐倉秋姫さん、あなたももう十四歳なのですから、受験を見据えて落ち着いてください。

 まゆりも、もう少し考えたほうがいいと思うよ ―― 何について、とは言わないが。


 二人に関しては終わり。


 タバサからメールが届き「水瀬リュリュさんの事件について」軽く知りたいと言われたので。好奇心は猫をも殺すぞーと前置きしてから知りたいことを尋ねた。


 タバサは具体的なことが分からないので、要約して教えてほしいとのこと。要約が苦手な私にそんなことを頼むとか……まったく。

 タバサに説明するというよりは、不特定多数に説明するようなつもりで書いてみることにする。


 まず第一に、同ジャンルだったタバサとまゆり、知識の違いはなぜ?

 → まゆりは当時の基準だが、サイトの作製に詳しかった。当時の完璧なまでの初心者であった私は熊谷さんから言われた「おかしな点」を聞いただけでは理解できず、どこがおかしいのか? まゆりに尋ねた。タバサは私と似たり寄ったりのレベルだったので聞かなかった。

 この部分が現在の「差」につながる。


 第二に「水瀬リュリュ」さんと【色褪せない夢を見る】は本当に別人? まゆりのように一人二役ではなくて?

 → これは疑った。私だけではなく、熊谷さんも当初は疑った。それで私は水瀬さんと【色褪せない夢を見るの管理人】をIPアドレスが分かるチャットへと招待した。【色褪せない夢を見るの管理人】は水瀬さんに連れてきてもらうことに。「お話をしたい」といったら、水瀬さんは連れてきてくれた。水瀬さんに嫌われていた熊谷さんは、このとき参加していない。あとでログを見せはしたが。

 水瀬さんと【色褪せない夢を見る】のIPアドレスは違った。まあ違うようにすることが出来る人など、山ほどいるだろうが、IPアドレスそのものが無いのだ。取得できなかった……と言うのが正しいのだろうが、とにかく無かった。

 でも一人二役じゃない……と言い切れないところもある。むしろ一人二役であって欲しいという気持ちもあった。

 それは後述で――


 第三に熊谷さんのお兄さんの失踪には本当に【色褪せない夢を見る】が関係しているの?

 → 私には断言できない。でも熊谷さんがそうだと信じているのだから、否定する必要もないだろう。人は誰かを原因にしたがるとも言うが、それはそれで。


 まず第二の「一人二役であって欲しい」と考えた理由を説明する。

 それはチャットの内容。

 【色褪せない夢を見る】の書き込んでくる文章は日本語ではなかった。もちろん英語でもない。英語は苦手ながら私も一応読めるのだ。これでも大学はアメリカ合衆国のマサチューセッツ……ここまで言うと「もしかしてMIT?」と聞かれるが、この私がMITとかあり得ないだろ。

 私はミスカトニックだ、ミスカトニック大学の人類学部。

 アメリカの大学卒業したのになのに英語苦手なの? と言われるが、あの大学はアメリカにありながら、英語は言えなくてもなんとかなるんだよ。ほとんどの学生が古アラビア語に精通しているから、そっちで会話できたし。どうしてって? そりゃあ……私の大学時代の話は後回しにして、水瀬リュリュさんと【色褪せない夢を見る】の話だ。

 ともかく日本語でもなければ英語でもなかった。多分ロシア語でもない。

 そもそもあの文字はパソコンに入っているのか? 【色褪せない夢を見る】と会話したとき以外見たことがない。フォントを確認したが、あの文字はなかった。ならどうやって表示されたんだ? と言われるのは分かっているが<なかった>のだ。


 だが水瀬さんは普通に読んで、楽しく会話していた。私は会話については行けなかったが――稚拙ながら頭を働かせた。水瀬さんは日本語を打ち込んでいるので読める。だから「ブラウザの調子が悪いのかな? チャットが不具合?」と別になんら問題のないそれらに責任を押しつけて、水瀬さんに少々翻訳してもらった。


 文字は日本語にはなったが、文章は日本語にはならなかった。「*******(パソコンに存在しないだろう文字)」→「みきらけらででかてか」となった。


 それから何行か水瀬さんが平仮名に変換してくれたのだが、日本語にならなかった。

 だから私は二人が同一人物ならいいと、思っている。まゆりと秋姫と同じように騙してくれたのなら……と思うが、残念ながらそうではない。

 話は戻るが、読めない文字に平仮名変換されても話についてはいけないので――あまりに翻訳してもらうのも悪いと理由をつけ、またの機会に……と告げて終わらせるつもりだったのだが、ふと思い「二人は問題なく会話ができているのなら、話していてもいいよ」といい退出した。

 ログは全て取れるタイプだったので、翌日回収して熊谷さんに見せた。


 まあ……だから、なんていうのかなあ、今だからこそ色々思うが、当時は成りすましかなにかだと勘違いしていた……ところもあった。


 この後、水瀬さんはオフ会で【色褪せない夢を見るの管理人】と会ったそうだ。

 そこから小説も激的に変化していった。

 文章が乱れ単語が崩壊し ―― そして行方不明になる。

 

 そして第一について。

 当時サイトに詳しかったまゆりに尋ねたこと。それはソースの見方やCGIについて。

 熊谷さんは話が通じない……あれは熊谷さんの接触の仕方が悪かったような気もするが……(最初の接触のしかたを間違ったことは、後悔しているので責めてはいけない)水瀬さんではなく、私のほうに積極的に話しかけていた。

 おかしさを理解させようとした熊谷さんは、私に【色褪せない夢を見る】の掲示板やメールのソースを見るように言ってきた。

 だが当時の私には、その意味が分からなかった。

 ホームページのソースなんて当時の私に分かるわけがない。そこでまゆりに「ホームページのソースってどうやって見るの?」と聞き、右クリックで見ることができることを知り(windowsなので)見た。

 見たのはいいのだが、ソースの見方すら分からない状況の人間がソースを見たところでなにも分かるはずがない。

 そんな私に熊谷さんは丹念に説明してくれた。しっかりと諦めず、怒ることなく説明してくれた熊谷さん。思えば、あの説明で私は熊谷さんを信じたのだろう。

 長い長い熊谷さんの説明、もしくは私の頭の足り無さをここに書き出すと長くなりすぎるので、まとめると――


―― あれはcgiじゃない、ただのタグ


 動的なものではなく 静的なものだったのだ。

 掲示板に見えたものは、ファイルでしかなかった。メールフォームも同じ。動かすためのcgiなどなかったのだから、私が幾ら送信ボタンを押そうとも動くはずがない。

 掲示板なら拡張子を見たらすぐにわかるだろう! 言われるだろうが、当時は拡張子を表示していなかったので(デフォルトのまま)

 表示されていたとしても当時の私には意味不明だっただろう。熊谷さんの説明を聞くまでは。


 こう書くと、ますます「水瀬=【色褪せない夢を見るの管理人】」と感じられそうだが……そうではないのだ。

 これが非常に説明が難しい。

 違う、違うと書き連ねても伝わらず、気付くと相手がいなくなっている。


 ―― タバサは納得したので「君が消えた六月三十一日」に関することは、これで一旦中止。熊谷さんと連絡を取り合えるようになったら、また続きを載せるかもしれないが。

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