[04]ミイラ取りがミイラになる
昨日まゆりと同じくらい懐かしい相手からメールが届いた。元ジャンルの知り合いタバサ。私は完全な字書きで、まゆりはイラストと小説書き。タバサはイラストとマンガを描いていた。
オフ本を作ったとき挿絵と表紙を描いてくれたのもタバサだ。
まゆりにもこの本は送った。
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大至急!
久しぶり! F。私タバサ覚えている?
あのさ! 大変なことが。このアドレス見て!url*3
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タバサも元ジャンルが同じで、よく私のサイトに通い、掲示板に書き込みをしてくれていたので「水瀬リュリュ」さんについては覚えていた。
いま大至急と書かれurl*3がそえられていたら、どれほど鈍くとも想像はつく。そしてクリックすると想像通り、そこには【色褪せない夢を見る】があった。
まゆりから教えられたものとほぼ同じ。
違うのはリンクページに小説家になろうと<佐倉さんのマイページ>の他に<剣崎 月さんのマイページ>のリンクが貼られていること。
剣崎 月は現在私が使用しているH.N。
以前の関係者の目に止まりやすいようにと、名前をF<エフ>に変えてて投稿していたのだ。タバサは「君が消えた六月三十一日。このタイトルだけでクリックする」とは言っていたが。
話は逸れたがurl*3のリンクページには、私も知らない熊谷さんはtwitterがリンクされていた。遡ってみるとそれほど頻繁には呟いておらず、最後の呟きは一ヶ月前。仕事をしながらお兄さんを捜しているのだから、そう頻繁に呟かなくても不思議ではない。
同じ名前の別人ではないか? と言われそうだが、失踪者関係ばかりフォローしているところを見ると、熊谷さんで間違いはないだろう
私はタバサに【色褪せない夢を見る】見つけた経緯やその他を尋ねるべく、自分で用意したチャットに招いた。鍵をかけたtwitterでも――と言われそうだがIPアドレスを見たいので。【色褪せない夢を見る】はIPアドレスがない。そういうことが出来る人は多数いるかもしれないが、私は見極めるためにIPアドレスが分かるものを用いる。【色褪せない夢を見る】に関しては。
普段は特に気にしないんだけどね。
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エフさんが入室しました。
タバサさんが入室しました。
エフ:久しぶり、タバサ
タバサ:久しぶり! 突然で御免
エフ:いいや。挨拶は抜きにして、あのページにどうやって辿りついたのか教えて
タバサ:それさ。新着で「君が消えた六月三十一日」ってタイトルを見かけて、まさか! と思ってクリックしたら、エフがあのことについて書いてて、思い出して・・・好奇心が出てきて捜したの
エフ:捜すって言っても、そう簡単に見つかるもんじゃないでしょう
タバサ:佐倉さんのマイページのアドレスでググったら出てきた
エフ:そうなんだ
タバサ:教えたほうがいいとおもって
エフ:ありがとう。このやり取り「君が消えた六月三十一日」に載せてもいい?
タバサ:いいよ。でも名前は変えてね
エフ:おっけー。なんて名前がいい? それにしてもタバサも小説家になろうを使用してるとは思わなかった
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タバサと少々話しをしてチャットを終わらせた。
まゆりからは連絡はなかったが、とくに気にせず。その日私はパソコンを閉じて眠りについた。
その眠りが妨げられたのは深夜三時。携帯電話が「通話」を知らせている。この時間に通話など珍しいなと思い画面を見ると「熊谷さとる」の文字。眠気は消え去り、私は通話ボタンを押しながら眼鏡を捜す。
▽
熊谷:エフさん!(ここはもちろん私の本名です)
エフ:熊谷さん。どうしました
熊谷:ありがとうございます!
エフ:はい?
熊谷:あなたのお陰で助かりました! 詳しいことは後日また! 本当にありがとうございます!
エフ:あ、はい
△
電話は切れて、私はしばし携帯を握り絞めたまま――
翌日の昼に熊谷さんから電話があった。正確には熊谷さんのご家族から。
熊谷さんは一ヶ月ほど前から行方不明になっていたのだそうだ。兄に引き続き弟まで――家族は心配して必死に捜しまわったが見つからなかった。
頼みの綱である携帯のGPSも作動せず。だが昨晩、とつぜん熊谷さんから”助けて欲しい”と電話があったのだという。
家族はいまどこにいるのか? を熊谷さんに尋ねるも、当人は自分が何処にいるのか? 分からないと言うばかり。携帯電話のバッテリーが持つうちにと、電波から位置を割り出し先程無事に保護されたのだそうだ。いままで散々見つからなかったのに、昨日から今朝にかけてはあっさりと捜し出すことができたそうだ。
救出された熊谷さんは衰弱しており、病院に運び込まれ処置を受けている間、必死に私に感謝をしていたとのこと。
私はそれほど感謝される覚えはないのだが。
▽
どうしてもつながらなかった携帯電話が、あなたから通話があり、つながるようになったそうです
△
落ち着いてから連絡をいただけると嬉しいですと告げ、私は電話を切った。
電話がつながらなかったと熊谷さんのお母さんは言っているが、私が何度か連絡をしたときは取ってはもらえなかったが普通に通じていた。メールもダエモンさんが現れることもなかった。ご家族が電話したときは「通話できないところ」と返されメールも悪名(?)高きmailer-daemonさんから返されたそうだ。
ともかく無事ならそれでいい。
だが一ヶ月も行方不明であったとなると、この話題を持ちかけるのは不適切のような気がする。「君が消えた六月三十一日のまとめ」をアップするのは、もっと時間がかかりそうだ。
それまで佐倉さんに関して手をこまねいているわけにもいかないだろう。
仕方ない、私とまゆりで説得してみよう。
ここまではそう思っていたわけですよ……
私は小説家になろうにログインして、佐倉さんにメッセージを送ろうとしたところ、メッセージが一件届いていた。
差出人は佐倉さん。
メッセージボックスを開きタイトルを見たところで、私はリアルに頭を抱えた。
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送信者:佐倉
件名:冗談だったんです! お母さんを助けてください
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これを見ただけでなにが起こったのかは察しがついた。正直読まずに削除したかったが……仕方なく開くと、内容は想像通り”自作自演がミイラ取り”
要約すると――
・佐倉さんとまゆりは親子。2002年の頃に二歳だった「秋姫ちゃん」が佐倉さん
・まゆりが、昔こんなことがあった――と佐倉さんに説明した。まゆりは【色褪せない夢を見る】のurlを覚えていた
・サイトを見せて話をしているうちに、二人で【色褪せない夢を見る】を作って(url*2)誰かを驚かそうと思い、その相手に当事者に限りなく近い位置にいた私が選ばれた
・私が真剣に答えているのを「楽・し・ん・で」いたらしい ←見捨てても許されると思う
・だが徐々におかしなことが起き出した
→ 無言電話が頻繁にかかってくる
→ 差出人不明のメールがまゆりと佐倉さんの携帯電話に大量に届く
→ 冷蔵庫の食材がごっそり消え、冷凍庫に保管されている氷が”黴びる”
→ 飼い犬が急死した
→ 家中が生臭くなってきた
・そして今朝、まゆりがいなくなっていた
ごめんなさい、ごめんなさい! とコピペされても、私にはどうすることもできない。もしかしたら二段構えでからかわれていることも考えられる。
なにもしてあげられることはないよ――私はそう書いて送った。
実際なにもしてあげられることはない。
私は急いでタバサに連絡をし、まゆりと同じことをしていないよね? 尋ねた。タバサはしていない! と言いきった。
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タバサ:私はどうしたらいいとおもう?
エフ:とりあえずサイトを持たないことかな
タバサ:pixivで活動してるんだけど
エフ:その判断はタバサに任せる
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私はタバサが教えてくれた【色褪せない夢を見る】url*3と、まゆりが人をからかうために作った【色褪せない夢を見る】url*3を見比べながら、溜息をつくしかできなかった。
まゆりの旦那さんからメールが届いた。
娘が騒いでいるので事情を教えて欲しいとのこと。
そこで私はまゆりとのやり取りと、さきほど佐倉さんから貰ったメールをプロバイダーアドレスに送った。
ざっと目を通した旦那さんから”申し訳ありません。ですがこれ、冗談ですよね”との返信が。普通は信じられないだろう。
力説もできないし、モニターの向こう側にいるのが本当に旦那さんかどうかも分からない。信じるも信じないも貴方の自由です――とだけして、私はこの件から手を引くことにした。
……という訳で、私が「君が消えた六月三十一日のまとめ」をここに再アップする必要性はなくなった。熊谷さんの体調が戻ったら、復活するかもしれない。
その際にはアドレスを書くかもしれないが、はっきりとしたことはまだ言えない。
いま見たら、タバサが発見した【色褪せない夢を見る】リンクページから<佐倉さんへのマイページ>が消えている。まゆりと佐倉さんが私を騙すために作った【色褪せない夢を見る】は、ほとんどリンクが切れたようだ。
追伸:熊谷さんはtwitterを削除したもよう
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