怖かった同級生が実は同士だったので、後で一緒に古書店に行った

ユラカモマ

怖かった同級生が実は同士だったので、後で一緒に古書店に行った

 忘れ物をして帰った教室で一冊の本が出しっぱなしになっているのを見つけた。ゆうに200ページは越えているだろう厚さだけれど、小口にはしっかり手垢がついていてよく読み込まれているのであろうことが分かる。それに一見古そうな本だけれど汚れなどはなく、この本が持ち主に大切に扱われていることが一目瞭然だった。一体このクラスの誰がこの本の持ち主だろうか。国語が得意な筧さん? 大人しい感じの古谷さん? …正直あまり人と積極的に関わることのない私には誰のものか全く予想がつかない。だからちょっと横にかけてあるバックで名前を確認しようとした。そしたら

「僕の机で何をしている?!」

 と、腹から出た大きな声が教室内に響き渡った。声の主は剣道部の如月貴士きさらぎたかしくん…ちょうど手にしていたバックに「如月」と書いてあることからこの机の持ち主であることが察せられる。如月くんは身長180センチオーバー、がっしりとした体格でいかつい…簡単にいうと怖い顔の男子だ。今は竹刀袋を背負って眉を吊り上げているので割り増しに怖い。もちろん直接話すのはこれが初めてだ。

「これ『僕とドラゴン』の初版本だよね、あの、若萩妙先生の…私この人の作品好きで、気になっちゃって…ごめんね、勝手に触って」

 持ちうる知識となけなしの愛想を使って返してみると如月くんは一瞬鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした後、すぐ破顔した。まるでおやつをもらった犬のように嬉しそうだ。

「そうか、おまえも若萩先生のファンか。それなら仕方ないな。なにせその本は簡単には手に入らない貴重なものだ。若萩先生のファンなら手に取ってみたくもなるだろう」

 なんなら振りまくっているしっぽも見えるくらいのドヤ顔で捲し立ててくる。これはあれか、同士発見というやつか。そう思うとなんだが私もそわそわしてきたぞ。友達も少ない上に読書離れの進む昨今、こんな古い本を好む同士と出会えるなんて思ってもみなかった。こうなって来ると気になるのは貴重な本の入手先で、同士のよしみで教えて貰えないかと頼むと如月くんは実にあっさり意外なことを言った。

「祖父が古書店を営んでいてな。週の半分も開いていない道楽のような商いだがその分掘り出し物も多いぞ。若萩先生は祖父も好きだから欲しいものがあれば問い合わせてみるといい。よければ今度案内しようか?」

「喜んで!」

 さぁいつが良いだろう、週末は習い事があるし、明日は…それならむしろ今日の方が…パラパラ予定帳を見ながら私は同士との出会いという初体験に胸を踊らせた。

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怖かった同級生が実は同士だったので、後で一緒に古書店に行った ユラカモマ @yura8812

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