KAC2023 竜眼魔術師団《Longan Magic Division》小話
阿々藍烏 青辰@ロボ×魔術小説執筆中
KAC20231/お題:本屋/ 王様とソロモンの魔術書
一文字が自室で一冊の本を手に取って少し前の事、魔術師としての第一歩目を思い出していた。
それは一文字がまだ
日本の京都での大樹の暴走により発生した大規模霊障をマリナが生贄となり、一旦は抑え込めたかと思ったが、今度はマリナがその場に集まってきていた樹種を相手に身を削りながら戦う状況となっていた。そこにオラジとアビゴル二将が父親から預かってきた指輪と羊皮紙の本より得た知識でマリナに掛かった生贄の魔術を騎士契約で上書きしたことで、止めることが出来た。
マリナは身体の治療や掛けられた魔術の処置をするため、森林十架教がある英国へと渡って行った。
一文字は日本に残された。
壊れた修道院の中で残された一文字は考える。
マリナを止める事が出来ただけであって、本当の解決には至らない事は分かっていた。マリナの事だけではない父親の事などもそうだった。
「なんとかしないと・・・だけどどうすれば・・・」
一文字は手元に自分と同じように残された指輪と羊皮紙の本に目を落とす。
「ほぉーこの状況で前を見てもがくのかよ。良いじゃねぇか」
「誰です?」
突然、一文字にかけられた男の声に反応する。
そこには上着を肩にかけた大柄な褐色の男が立っていた。
「俺の名前はルバス=マーシア、お前さんの父親の知り合いだ」
「父の知り合い?その知り合いのマーシアさんが何か用ですか?」
「あぁ他の知り合いから落ち込んでいるであろうお前の様子を見てきて欲しいと言われてな」
「そうですか」
一文字はルバスの言葉に短く言葉は返し、一息を付いた。そんな様子を見たルバスは言葉を続ける。
「まぁそれで見に来て、落ち込んでるより先にどうにかしようと考えてる奴なんざなかなかいえねぇと褒めたのさ」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、どうにか出来るのか?この状況を!?」
一文字は気持ちが昂り、両手を握りしめて声を荒げる。
「出来るかもしれねぇし、出来ないかもしれぇ。全てはお前次第だぜ」
一文字の荒げた声を流し、ルバスは落ち着いた声で答えた。一文字はその返答にしばし沈黙し、この先について尋ねた。
「・・・・・・俺は何をしたらいいんですか」
「そうさな・・・まずはその本から得た知識で魔術を上書きできただけで、お前は魔術師じゃない。まずは魔術師になる所からだな」
「魔術師・・・」
「ああ・・・特にお前の手元にある指輪と俺たちにまつわる魔術をしらなきゃなんねぇ」
「この指輪とマーシアさん・・・達?」
一文字は指輪も摘み上げ、ルバスを見る。
ルバスは頷く。
一文字は決意を秘めた眼でルバスを見る。
「マーシアさん、魔術師になる為にはどうすれば良いですか・・・?」
「決断が速いな。そう言えばお前の名は?」
「一文字大樹」
「そうか、大樹、俺の事はルバスで良い。これから長い付き合いになりそうだしな」
「わかりました。ルバスさん」
「ルバスさんか・・・まぁ良い。取り敢えず、行くぞ」
「何処に?」
「魔術を知る為に魔術書を手に入れない事には話になんね。それを買いに行くぞ」
「魔術書!・・・あ・・・でも・・・そんな高価な物・・・」
一文字は手元にある羊皮紙の本を見て、魔術書も同様に高い物だと考え、言葉が尻すぼみになる。しかし、ルバスはニカっと笑みを浮かべて陽気に答えて、壊れた修道院を出ていく。
「あぁそいつは大丈夫だ!これからは身内同然になるんだ。それぐらいは買ってやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
一文字は礼を述べながら、ルバスに付いて、壊れた修道院を出て行った。
ルバスは大樹の暴走の範囲を逃れた商店街へと一文字を連れてきた。
一文字は連れてこられた普通の商店街をきょろきょろと見ると如何にも魔導書が売っているような場所はないなと思っているとルバスが声を駆けた。
「大樹ちょっと待ってろ。買ってくるわ」
とルバスは商店街の3階建ての本屋に入っていった。一文字は入って行った本屋を見た。
”文章堂”
シードブレイク後でも全国にチェーン展開するコンクリート等で建てられた近代的な大型書店だ。そう、人の知識欲は種が落ちてきたぐらいでは負けないようだった。
だが、明らかに魔術書が売っているような場所では無かった。
「え・・・魔術書って売ってるの?」
一文字はその本屋を見上げて、自分が持つイメージとのギャップの差に呆然とする。
「待たせたな、大樹。ほれ、魔術書だ」
ルバスは今買ってきた本を一文字へと渡した。
渡された一文字は呆然としながら、渡された本を裏表、中身と見る。
”魔導書ソロモン王の鍵” 単価3.300円(税抜き)
表紙にはバフォメットらしき絵が描かれ、中身の文字は日本語だったので一文字にも十分読めて解る本だった。
「え、魔術書?これは普通の本?」
「おぅ普通の本だが魔術書だ」
「マジですか?」
「マジだぜ」
一文字大樹の魔術師としての第一歩は魔術書に対しての幻想を砕かれた所から始まった。
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