第33話 仲間をあつめる
「で、何で急に俺は呼び出されたんだ?」
佐伯渉がたまたま近くにいて助かった。
「俺も美里駅に遊びに来てたから、直ぐにこれたが……いきなりすぎんぞ……ったく」
愚痴を言う渉。
美里駅前のロータリー広場。
人通りが多く、車道にはバスと電車から降りてきて足がない人間を待ち構えているタクシーが列をなして止まっている。
俺たちはあの後場所を変えて、そこに渡を呼び出した。
美里市の発展に貢献したらしいスーツ姿のおっさんの銅像の下。
俺は渉に対して、平手を立てて謝っていた。
「すまない助かった。まぁ遠くにいてもタクシーを使って来てもらうはずだったけど。当然料金は俺も持ちで」
「俺に対するお前のそのこだわり何なん?」
確かに、彼とは会ってそんなに時間を経ていない。だと言うのに、俺は心の底からこの男は俺がどんな無茶ぶりしても応えてくれるのではないかと信じている。
「それだけ、お前がいい奴ってことだよ」
「そんだけ、信頼されるほど一緒にいたつもりはないんだが?」
「それだけの時間が必要ないほど、お前は見てくれがいい。人間の姿かたちって言うのはそいつの内面が見えるもんさ。お前は誰もが一目見るだけで、いい奴だってわかる。それほどのイケメンってことだよ」
「……その言葉だけだと褒められているんだろうが。この状況が褒められているような感じがしねぇ」
結局、俺はお前にいいように使われているだけじゃねぇかと鼻の頭をかきながら愚痴を言い続ける渉。その頬が若干赤かった。
「すまん。礼はする。必ず、する。誠意を尽くしてくれたいい奴に対して、こっちもちゃんと誠意を見せないと、いい奴だからこそ見捨てられるからな」
「その誠意って言うのは、私にも見せてくれるのよね?」
横から刺すような視線を感じる。
橘陽子だ。
彼女もここに呼び出していた。
服屋を見ていた隙に俺と那由多さんは抜け出し、丘の上の公園でデートをしていた。
その間再三彼女からの連絡が携帯に届いていたが無視をし続けた。というのに、俺は自分の……いや那由多さんの都合で彼女を利用しようとしている。
申し訳なく無く思う。
「本当に悪い……あとで埋め合わせは必ずする。約束するよ陽子」
だけど、那由多さんにとっては必要なことなのだ。
俺は陽子の手をぎゅっと握り、誠意を見せるために彼女の目を見て言う。
「ま、まぁ……埋め合わせを約束してくれるのなら……まぁ、いいけど」
照れた陽子は顔を赤くして顔を逸らす。
「……で? あんたら私をまいて遊んでたんでしょ? それで何でまたあたしを呼び出すの?」
意地の悪い言い方をする陽子。
その言い分であると俺が一人ぼっちになった陽子を遠巻きに見てからかっているような言い草じゃないか。
まぁ、そう捉えられてもおかしく無い仕打ちを彼女にはしたのは事実だ。
それでも、元々今回のデートは俺と那由多さんの二人きりで来るはずだったので、無理やりついてきたのは陽子も悪いと言えば悪い。
こっちの言い分としては、そう言う手段を取ってでも二人きりになりたかったと言うこともわかって欲しい。
だが陽子は内心、ちゃんとそれを察しているのか、置いてけぼりにしたことを深く追求しようとはせずに瞳を横にスライドさせ渉に焦点を合わせる。
「そしてこの人———誰?」
そういえば初対面だったな……渉と陽子は。
ジトリと睨みつけるような瞳を向けられ、渉は若干気分を害したようにムッと唇を尖らせた。
「誰ってぶしつけだな……佐伯渉だよ。こいつのクラスメイト」
親指で俺を指さす。
俺は人を指さすなとその手を取って優しく下げてやる。
「クラスメイトじゃない、親友だろ?」
「———って一方的に言っているが、俺とこいつはまだ会って間もないし、俺はこいつの独りよがりな態度にさんざん振り回されて、大変迷惑している」
「悪いとは思ってはいるさ。だけど、それでも付き合ってくれるお前だから、どうしても頼りたくなるんだよ。お前ほどいい奴を俺は他に知らないから。多分、この世界で存在してる男の中で一番いい奴なんじゃないか? お前?」
「———ッ」
ぶわっと渉の全身の毛が逆立った。
首筋に鳥肌が見える。
「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇ! テメェ!」
拳をにぎり、彼は一瞬俺を殴ろうとしたが、何故だか振り返るのをやめて拳をおさめた。そして、「全く……」と言って首を振った後呆れたようにため息を吐いた。
背を向けている渉の後頭部しか見えないが、彼の耳が赤くなっているのがわかる。
「はぁ~……そういうことを平気で言えるのはあんたのいい点なのか悪い点なのか……そんなことを言うから放っておけくなるのよねぇ……同情するわよ」
ポンポンと陽子が渉の肩を叩き、渉はいきなり距離を縮めてきた陽子にビビったのか、「お、おう⁉」と変な声を出して一歩退いた。
「あたしは橘陽子。こいつの幼馴染やってるの。よろしくね佐伯君」
「う、うん……」
うん……?
渉は借りてきた猫のようにおとなしい反応を見せる。こいつ金髪でちゃらちゃらした見かけをしているが、案外女に慣れていないのか?
「あの……黒木君……」
那由多さんが俺の背をツンツンと控えめにつつく。
「佐伯君まで呼び出して……いったい何をするつもりなの?」
彼女は不安そうに俺を見つめていた。
それはそうだろう。
これは彼女のコンプレックスに関わる問題だ。彼女の探られたくない腹を探り、知らなくてもいいはずの渉と陽子に晒すことになるかもしれないのだから。
だけど、
「いったろ? 復讐だよ。安藤さんたちに」
「そんなのしなくてもいいって……」
「やっても意味のないことかもしれないし、那由多さんも望んでいないかもしれない。今後那由多さんが人生を歩み続けていくことにおいて、もう安藤さんの事なんて忘れて、触れずに生きていく方がいいのかもしれない。だけど、そんなのどうでもよくて、俺は那由多さんにスッキリして欲しいんだ」
「え」
「すっきりとした気持ちでこれから生きてほしい。昔のつまらない黒歴史なんかに囚われずに、久しぶりの相手に遭遇しても怯えることなく、笑って受け止められるように」
「————ッ」
那由多さんの瞳が段々と見開いていく。
那由多さんは綺麗だ。可愛い。ウチのクラスで、いや、学校で一番かわいい存在だ。そんな彼女が、昔を知るだけの元友人に遭遇しただけで蛇に睨まれたカエルの様に身を千々込めてしまった。そんなことをする必要。全くない、何処にもなかったのに。彼女は過去に囚われていた。
それが俺には我慢できなかった。
「復讐しよう。安藤さんにざまぁって言ってやろう」
ニッと笑いかけて那由多さんの肩に手を置いた。
「そんなことをしても何にもならないよ……」
相変わらず復讐に対して否定的なことをいう那由多さんだが、俺の手に重ねる手は温かく、目の端には一滴の涙が見えた。
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