第31話 小学校時代の那由多さん
スクールカーストって言葉が嫌いだった。
学校生活で生徒を区分する忌まわしい概念だ。カースト上位の人間は楽しい学園生活を送れ、下位の人間は惨めに過ごさざるを得ない。
私、那由多愛は小学校はスクールカースト最下位の人間だった。
両親が共働きで一人でいることが多く、その上妹がいたから、両親は子供の世話をするにも妹につきっきりで私にはあまり構ってくれなかった。
そのせいか、ゲームや漫画を買い与えてもらった。
あまり運動が得意じゃなかった私は友達と外に出て友達と遊ぶと言う選択肢がなく、ゲームや漫画の登場人物が一番の友達で、創作物というモノにのめり込んでいった。
ただ、ゲームや漫画は小学校には持っていけないので、学校では図書室にこもるようになった。ゲームや漫画の代用品として文学に手を出した私だったけど、のめり込んだ。のめり込んでずっと活字から目を離さない女の子になって、ファッションや髪型とかにも気を遣わず、前髪が伸ばしっぱなしで視力が落ちて、眼鏡をかけるようになった。
友達はいなかった。
だけど、それでよかった。
私はずっとゲームや本の中にいればよかった。創作物の中にいられればそれでよかった。
それなのに、あいつらはそれを許さなかった。
安藤さんは私から本を取り上げて、外に無理やり連れだして、鈴木さんは不器用な私が失敗するたびに笑い者にした。スキップが変だとか、二重跳びもできないとか、ドッヂボールの的だとか、みんなができない私を指さして笑っていた。そのことに対して怒ると、空気を読んでないって言われて、またみんながへらへらと笑っていた。
だから、試しに笑ってみた。
怒ったらだめなら、私もつられて笑ってみた。そしたら、「からかわれて笑ってるなんて頭がおかしいんじゃないの?」ってまた笑われた。
安藤さんに目を付けられてから、私の周りには人が集まるようになった。
いっしょに遊ぶようになった。
ううん、違う。私の感覚では〝遊ばれる〟ようになった。
何をやるにしても失敗するように期待され、面白い奴と言われるようになった。
お前がいたら楽しくなると言われて、何をやってもできない私を嗤うことでみんなが楽しんでいた。
いじられキャラ。
私はそういうポジションだった。
バラエティ番組とかで、顔があんまりよくなくて優しくて気弱そうな人がそういう対象になる、私はそういう人間なのだと自覚させられた。
何をやっても報われない不憫なキャラクター。はたから見ると惨めなそのキャラクターは確かに面白い。
だけど、プライドが削れていく。どんどんどんどん……私が私であるという、誇れる自分がなくなっていく。
ゲームや漫画の主人公に私はなりたかったのに。
なりたかったからこそ、創作世界い続けて、現実世界と関わらないようにして来たのに。
現実の私はピエロだった。
私の友達を自称する安藤さんと鈴木さんは、「本なんて読んでないで、もっと人と関わんないとダメだよ」って言い続けて、私から本を取り上げていった。
そんな時、君が助けてくれたんだ。
公園でみんなから離れて一人本を読もうとしていた私。その私から本を取り上げていじられキャラにしようとしていた安藤さん。それを虐めだと思った君がさっそうと現れて、安藤さんたちから本を取り返して、私に渡してくれた。
そうして、言ってくれた。
「この本のヒロインみたいに可愛いね」
その時の私は、安藤さんから本を取り返そうと必死で前髪が乱れて眼鏡が外れていた。
素顔を見た君は、何の気なしにそう言って笑いかけてくれた。
嬉しかった。
何の気もなしに言ってくれたのが心の底から嬉しかった。
私はヒロインになれるんだと思った。
そこから、私は変わろうと思った。
脳内だけじゃなくて、現実でもヒロインになろうと自分を磨いた。
勉強も運動も頑張って、環境を変えた。昔の知り合いのいない中学校に進んで、私を知らない場所で一からやり直した。
小学校の頃がトラウマになって、あんまり人と関わらなくなって、氷姫なんて呼ばれて、友達は真子だけになっちゃったけど、私はあの本の———あのラノベのメインヒロインになって自分に自信が持てるように頑張った。
そうして——高校生になって君と出会ったんだ。
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