あこがれの人

ビターチョコ

初めてのバイト

毎週水曜日と木曜日、そして土曜日はバイトの日。

お金に困っていたわけではないけれど

学校帰りと、貴重な週末をつぶしても会いたい

あの人がいる場所で、僕はバイトを始めた。


僕の幼馴染の染谷 雪兎(そめや ゆきと)

3歳の時から、ずっと一緒に遊んで、悪戯して毎日暗くなるまで走り回った。


雪兎の兄、龍一郎は僕たちの6歳年上。

暗くなっても帰ってこない雪兎を迎えに来るのはいつも龍一郎だった。

まぁそれも、龍一郎が中学生になるまでの間だったけれど。


小さかった僕のあこがれの人。

彼に会いたいがために、雪兎を遅くまで足止めしたこともあった。

僕はひとりっ子で、兄弟がいることが羨ましくて仕方なかった。


無理を言って、泊りに行ったりもした。

そんな僕たちも高校2年生。

ホントはバイトなんてしてる場合じゃないんだけど

どうしても、龍一郎と一緒に働いてみたくて

春休みと夏休みの長期休暇中と

週末バイトさせてもらうことになった。


龍一郎が社会人として勤め始めたのが本屋だった。


大きなショッピングモールの中にある店舗で

バックヤードメインで仕事をしているらしい。


今日は、そんなバイトの初出勤の日。

雪兎も一緒にバイトに誘ったけど、

兄貴とずっと一緒なんてげんなり。とすげなく断られて今に至る。

1人緊張しながら事務所のドアをノックして中に入ると


「久しぶりだね、樹君。」


ドアを開けた音に反応してこちらを向いた龍一郎が真っ先に声をかけてくれた。


「龍一郎さん、よろしくお願いします。

でも、久しぶりに会うのによく僕だってわかりましたね?」


「雪兎が写メ送ってきてた。

 ”樹の事、最近見てないだろうから一応送っとく”ってメッセージ付きで。

 それでなくても、今日この時間に来るのは樹君くらいだからね」


「なるほど! 確かにバイトに来るの僕だけならわかりますよね」


「とりあえず、いろいろ説明もあるからこっちにおいで?」


ロッカーに荷物を置いて、エプロンを付ける。

社員証ではないけれど、それに近いものを近日中に用意するからそれまで

仮の名札を付けて置いてね。

と注意事項を説明されて、作業に移る。


大学にはいかないって聞いて、専門学校卒業後にそのまま本屋に就職したって聞いて

一度は一緒に仕事してみたいって思ってたんだ。


弟の幼馴染が、職場まで押しかけて来たよって

嫌な顔されたらどうしようって思ってたけど

凄くて丁寧に仕事を教えてくれる。


マンガや小説、雑誌だけじゃない、文房具とか雑貨なんかの取り扱いもあるからって

最初に全部覚えきろうとしないで、一つずつ売り場を覚えていってね。

って言われて、安心する。


やっぱり、僕のあこがれの人。

こんな素敵な人がお兄さんなんて、雪兎が羨まし過ぎるって言ったら


「そりゃ、樹は他人だからやさしくしてもらえるだけさ。

 家じゃ俺様まではいかないけど、ずっとニコニコなんてしてないし

 聖人君子みたいなかんじじゃねーし。」


って言われた。

僕からしたら、そんな普段の姿も見てみたいものだけどね。


今度、レンタルお兄さんで1か月くらい僕の家に来てくれないかな。

高校生にもなってって言われるかもしれないけど

やっぱり兄弟欲しかったな。。。

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