幻の古書

まれ

古書店

 地元の古びた商店街の中に古書店がある。

 入ったことはないがかなり昔からあるということだけは知っていた。

 その古書店は扉がなく、直接シャッターを閉めることで施錠しているタイプのお店だった。そのシャッターもかなりボロボロで錆びていて蹴れば簡単に壊すことが出来そうな物だった。



 中に入ってみるとかなり年季の入った茶色っぽい色の本棚がずらっと並んでいて天井近くまで本も入れられていた。匂いも古書店独特のあの匂いで店中に充満している。



 僕はとりあえずどんな古書を置いているのか見て回ることにした。

 お店の中ほどあたりに進んで、少し上の方を見ていると太めの黒い背表紙の本が気になった。背伸びして届く高さではなく、台に乗ってその本を手に取った。黒い表紙で覆われ、紙は黄ばんでいる。重さは本というには重く、ページ数も千を超えていそうな物だった。



 一ページめくってみると、そこにはタイトルとこの本の著者の名前が記されていた。


『幻の古書』 著者:Dr.《ドクター》


 タイトルもよくわからないうえに聞いたこともない人の名前だった。

 また一ページをめくると文章が書かれていた。



 ある少年がある本屋でとある本を買いました。その本はとても分厚つ読み応えがありそうでした。とても気に入った少年はその本をベッドの横に置きました。…



 ふと、後ろの方から視線を感じた。振り返るとそこには誰もいず、ただ本棚があるだけだった。店主であるおじいさんも気にすることなく新聞を読み続けている。



 僕はその本を買うことにした。続きは家でゆっくり読もうと思ったのだ。立ち読みで読み切れる量でもない。

 おじいさんに言って会計をしてもらったことで気づいたが、この本なんと三十円だった。千ページを超えるこの本が三十円とは古書だとしてもかなりの破格である。



 その後家に帰るときもチラチラと後ろを確認しながら帰った。特に何も起きてはいない。やはり自分の気のせいだったのだろう。



 部屋に戻り、買った古書を再び開くと白紙になっていた。千ページ以上ある本のどこを開いてもすべて白紙だった。



 これは夢かただ疲れて見えてないだけだろうとその本を僕はベッドの横に置いてさっさと寝ることにした。



 翌朝、ベッドの横には昨日買った古書がなくなっていた。

 やはり夢だったんだと財布を見たがしっかりと三十円減っていた。

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