通っている本屋の美人店員がやけに俺を見てくると思ったら昔離れ離れになった幼馴染でした

@mikazukidango32

第1話

『あなたなんて大っ嫌い!!』―――


―――「はっ……。夢か……」


俺は現実に引き戻されるようにして目が覚めた。またこの夢だ。最近、何度も見てしまう遠い日の記憶。涙ながらに俺を詰る幼馴染の姿。何故、俺がこんな言葉を言われているのかはよく覚えていない。だが俺は幼馴染の泣き顔を忘れられないでいた。


夢を見るたびに気分が悪くなる……。そんな憂鬱な気分の時は本を読むに限る。俺は出かける支度をして外へ繰り出した。


 ひっそりと佇む街外れにある本屋に通うのが俺の日課だ。人通りも少なく閑散としている場所にあるため人もあまり入ってこない。俺はそんな雰囲気が大好きだった。誰にも邪魔をされることなく静かに本を選ぶことだけに集中できるからだ。


俺は今日もその本屋に行った。店内には俺ともう1人の客しかおらず、後は女性店員だけだ。俺はいつも通り本を一通り見ていった。購入する本を選んでいると何故か先程から俺の様子を伺うような気配がする。


やけに店員から視線を感じるような気が……


いや気がしただけで実際俺の自意識過剰なのかもしれないが、それにしてはやけに目線が合う。


俺はただ本を選んでいるだけでそんなにおかしな行動は取っていないはずなんだけど……。自分の行動に何かおかしな点がなかったか振り返っているとその店員が近づいてきた。


そして俺に恐る恐るといった様子で声をかけてきた。


「あの……前から気になっていたんですがどこかでお会いしたことありましたか?」

「え?」

「人違いだったら申し訳ないんですけど、知り合いに似ていて……」


女性店員をよく見てみると確かに見覚えがあるような気がする。黒髪ロングでまさに清楚系といった雰囲気に目鼻立ちが整っておりすっきりした美人だ。しかし誰だったのかまでは思い出せないでいた。


「お名前を伺ってもいいですか?」


俺は何か手掛かりがないかと思い女性の名前を尋ねた。


「私の名前は星坂ほしざか……星坂亜紀ほしざかあきです」


星坂……。俺はその名前を聞いて目の前にいる女性が誰なのか理解した。最近、夢に出てくる幼馴染だということを……


「亜紀……。久しぶり」


俺はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。というのも夢に出てくる彼女は号泣していた。何故泣いていたのか……。確か俺は彼女とケンカをしたんだ。なぜ彼女とケンカすることになったのかまでは思い出せないけど……。それで彼女とケンカをしたっきり親の都合による転校で彼女と会っていない。


だからどんなテンションで喋ればいいのか分からなかった。


「やっぱり……。さっくんだったんだ」


さっくんというのは俺の昔のあだ名だ。


「元気してた?」

「うん。さっくんも?」

「まあ、ぼちぼちかな」

「あの時……、私たちがケンカしたあの日覚えてる?」

「ケンカしたのは覚えてるけど何で俺たちケンカしたんだっけ?」

「あの日はあなたの誕生日だったの……。それで私がプレゼントを渡そうとして……」

「俺はそれを受け取らなかった」

「うん……」

「全部思い出したよ」


俺は亜紀の言葉を聞いてようやく思い出すことができた。幼馴染の亜紀とはずっと仲が良かった。でも確か友達に亜紀と仲が良いのをからかわれたんだ。それで誕生日プレゼントを受け取るのが妙に恥ずかしくなった俺は受け取りを拒否した。


『大っ嫌い』と亜紀が言ったのも無理はないな。あの時の俺は自分のことしか考えていなかった。受け取りを拒否された亜紀の気持ちを考えるべきだったのに……


「あっ、あの時渡すはずだったプレゼントまだ家にあるんだよ」

「とっていてくれたんだ?」

「うん。いつか渡そうと思っていたんだけど、すぐにあなたが引っ越して行っちゃったから結局渡せずじまいでずっと家に置いてあるの……」


あの時の俺は意地を張っていたのだろう……。周りにからかわれることに耐えられなくなりその結果、幼馴染を傷つけてしまった。それっきり会えなくなって俺はいつも悔やんでいたんだ。


 それから亜紀と連絡先を交換して俺と亜紀は懐かしの公園に来ていた。


「あなた……。昔にずっと欲しがっていた本あったよね」

「あー、懐かしいな。結局俺はお小遣いが足りなくて買えず仕舞いだったんだけどな」


彼女と懐かしい話で花を咲かせていたところ、彼女はカバンから何かを取り出して俺にこう告げる。


「あの時のプレゼント……。私はあなたにこの本を渡したかったの……」


丁寧に包装されているそれは当時の彼女のセンスと思われる可愛いリボンがあしらわれていた。当時の彼女が俺のために一生懸命ラッピングしてくれたのだろう。俺はそれを両手でしっかりと受け取った。


「ありがとう」


俺は過去に言えなかったその一言をついに言うことができた。この本が俺たちを繋いでくれたってことだよな。




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