第7話 マイ-03.宿敵
「お帰りなさいませ、マイ様」
「嗚呼、ありがとうクロエ、みんな」
マイが控室へ戻ると彼女の勇姿を見届けたサザナミ国の皆が出迎える。
「マイにゃあああああ! かっこよかったにゃああああ!」
「ミミィ~。ミミィも一回戦突破おめでとう、相変わらずモフモフいい身体してるな」
マイのビキニアーマーへと飛び込んだ女の子は先程一回戦を突破したサザナミ国代表、
「おめでとうございますマイ様」
「まだまだ今からが本番だ。ミナモも心してかかるんだぞ」
「ええ、勿論です!」
握手を交わすミナモとマイ。今のところ全員が一回戦突破で順調なサザナミ国の
一回戦は順当に勝ち進んでいるサザナミ国のメンバー達。クロエの試合は明日行われるため、今日は残りの試合を観戦するのみとなる。終始和やかなムードの中、マイはミナモをある場所へと誘う。それは出場者が観戦するために用意された関係者席だった。
「見ておいた方がいいだろうと思ってな」
「そう……ですね」
マイは少女の瞳から真意を窺う。心なしか少女の心が揺れているように見て取れた。それもその筈、少女が
「大丈夫だよミナモ、お兄さんはきっと生きている」
「はい、ありがとうございます」
「本日
舞台上では月の光を吸い込んだかのような美しい金髪を靡かせたエルフが登場し、会場の熱気があがっていた。ミナモにとっては初めて見るエルフの女性だが、マイとっては何度も戦った事のある良き
レティマが会場からの歓声に応えたあと、
「そして、火コーナー。深淵の闇を背負いし魔族の
『グロリア様ぁ~~~』
『俺をその美脚でえええ』
『一生ついていきます!』
『グーロリア! グーロリア!』
様々な種族の者達から声があがる。美しき魔族は大会でも有名な美闘姫らしい。
「グロリアってこんなに人気なんですか?」
「そういう事だミナモ。君が戦おうとしている相手はそういう女だ」
自身の両膝に乗せたミナモの掌が震えていた。それ何も知らない観客の様子を見た悔しさからか、宿敵である女魔族へ対する怒りからなのか? 少女の様子を察してか、少女の右手に左手を重ねるマイ。我に返ったミナモがグロリアへお礼を言う。
「ありがとうございます。落ち着きました」
「さぁ、始まるぞ」
試合開始の鐘が鳴る。
――刹那、舞台上より、エルフの姿が消える。
舞台上空より白銀の雨が降る。氷の結晶を凝縮させたかのような光輝く白銀の矢。一瞬にして舞台上が何百、何千もの一条の光に包まれる。
「悪よ、聖なる氷を前に滅びなさい!」
エルフの姫が放つ聖なる
グロリアの姿が見えないまま、硝子が割れるような音と共に、何かがレティマへ向け襲い掛かる! 彼女の胴体へ噛みつこうとする毒牙を華麗に躱すエルフ。高速で舞台上を旋回しつつ、高速で矢を放ち、細長く伸びる
「あれは……
「始まるぞ」
ミナモの呟きに応えるマイ。矢を躱した蛇は氷の彫刻の中へと帰還し、打ちつけられた蛇の胴体が切り離され、飛散した紫色の体液から霧状の何かが空間へと広がる。
「フフフ、毒の霧に呑まれなさい」
「甘いな」
襲い掛かる霧を前に手を翳すレティマ。氷の彫刻が生きた竜のように霧を包み込み、すぐさまドーム状の氷の壁が完成する。背後より気配を感じたエルフは再び上空へと舞い上がる。この時、廻り込んだグロリアは既に、掌から見えない波動を放っていた。レティマが上空へ舞い上がた事で氷のドームへ罅が入り、
空中で蛇の毒牙とエルフの矢が二、三、交錯したところで、
それまで沈黙していた観客から歓声が上がる。あまりの速さについていけない者がほとんど。とにかく圧巻の試合。それ程までに両者の動きは一回戦とは思えない程、洗練されていた。
「私達は一体何を魅せつけられているのでしょうか? 凄い、凄いです! 語彙力を失ってしまう程の攻防。これが
ケモ耳娘も立ち上がり、実況に熱が入っている。ミナモは黙って二人の闘いを見ていた。もし、兄を救うならば、この魔族に打ち勝たなければならないのだ。
「ミナモ、そろそろ奴が本性を見せるぞ?」
「え?」
ミナモだけでなく、グロリアはマイにとっても宿敵なのだ。そのためマイは、魔族である彼女の強さをよく知っているのだ。グロリアの頬には傷がついていた。頬から滲む紫色の液体を指で舐める女魔族。
「あら、傷がついていますわね」
「次はそのくらいの傷では終わらん」
「何を言っているの? 傷はあなたのコトよ♡?」
エルフが自身の脚へと視線を向けると、切り離された蛇の一匹が彼女の細く美しい足首へと噛みついていた。氷の刃で蛇の胴体を吹き飛ばすが、傷口より彼女の全身に熱い何かが駆け巡る! エルフは、そのまま片膝をついてしまう。
「貴様……何をした?」
「ここからが本番よ、エルフのお嬢ちゃん♡」
女魔族は妖艶な笑みを浮かべ、舞台上で舌なめずりをした。
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