第三章 過去と現在

第36話 わ、私も。雑魚寝ぐらいだったら別に平気

 あの出来事から一週間が経った。


「おはよう月ちゃん」

「おはよう静香ちゃん」


 もう二人の関係は戻っており、今日もいつも通りの朝を迎える。

 お互い言いたいことを言ったからだろうか、前よりも距離が近くなっているような気がする。


 それは静香にとって喜ばしい変化だった。


 ちなみにメアリーはトレイに行っていて教室にはいない。


「おはよう二人とも~。一週間前が信じられないぐらい仲が良いね~」

「全く。いつまでそのことを言っているんですか。もう終わって一週間ですよ。さすがにしつこいですよ」


 朝から全速力で飛ばしてくる天音と、呆れながらも注意する帆波。


「そうだ。足を滑らせて月のおっぱいを揉もう」

「ふぇっ」

「なにを馬鹿なことを言っているんですかあなたは。月も嫌なら嫌だとはっきり言わないとダメですからね」

「そうだよ~。言わないと本当に揉んじゃうぞー」

「も……揉んじゃ、ダメ」

「「……可愛い」」

「……可愛いですね」


 なぜか月の胸を揉もうとする天音に動揺した月は恥ずかしそうに顔を赤く染める。


 もちろん、天音は帆波に怒られるものの、からかいの手を止めない。


 あの日から月も自分の意見を言えるようになった月は拒否反応をするが、その言い方が可愛くて三人して萌えてしまう。


「今の月、まるで凌辱もののAVヒロインのようだっ――」


 ニヤニヤ笑いながら一線を越えた天音に帆波は無言で拳骨を落とす。


「いったぁ~。暴力はんたーい。暴力はなにもうまないぞ~」

「なら、一生口を閉じておいてください」


 帆波の暴力に抗議する天音だが、天音の方が悪いので庇うことも同情もしなかった。


 帆波が怒るのもの分かる。


「いつも通り賑やかんだな」


 トイレから戻って来たメアリーは保護者のような視線で静香たちのやり取りを見ている。


「というより~、月のおっぱいよりもメアリーのおっぱいの方が揉みごたえがあるよね~」

「うわっ、マジで最低ですね、この男」

「どうして男という生き物はこんなにも胸に固執するのだろうな」

「……うぅ……もっと大きくなるよね。まだ高校二年生だもんね」


 天音が史上最低なことを言い、帆波はゴミを見るような目で天音を見る。


 さすがに天音の言っていることは最低でゴミだ。


 メアリーは最低やゴミを通り越して呆れている。


 月が自分の胸を触りながらブツブツ呟いているが、静香は聞こえなかった。


「天音ちゃん、月ちゃんに失礼だよ。月ちゃんのおっぱいもきっと良いおっぱいだよ」

「それ、月のフォローになってますか?」

「我のおっぱいも良いおっぱいだぞ、静香」

「あなたもなにを言っているんですかっ」


 月のおっぱいも魅力的ということをフォローする静香に、帆波は首を傾げていた。

 ここでなぜかメアリーがおっぱいのことで張り合い、静香の前に胸を寄せてアピールしてきた。


 メアリーの胸の圧倒的なボリュームに静香も思わず照れてしまう。


 数多く放たれるボケに帆波が忙しそうにツッコミを入れる。


「……月。これが本当に月の望んだ関係なんですか」

「……う~ん……少し違うけど、変に遠慮されるよりかは良い」

「……そうですか。……月が良いなら別に良いですが」


 頭を抱えながら月に質問をする帆波。


 少し違うがこれが月の望んだ世界らしい。


 帆波はあまり納得していない顔をしていたが、前よりも月が幸せそうな姿を見てこれ以上の追及を止めた。


「そう言えば静香たちは三人でお泊り会をしたようだな」

「そうですね。三人で男子会をしました」

「ふむ。それは羨ましいな。なら今度は月も交ぜて五人でやらないか」

「「「……はっ?」」」


 誰かから静香たちが三人で男子会をしたことを聞いたのだろう。質問された静香は素直に答える。


 みんなでお泊り会が羨ましかったのか、今度は五人でお泊り会をしようと提案するメアリー。


 あまりにも突拍子もない提案に四人は思わず絶句する。


「さすがに男女のお泊り会はヤバいんじゃないですか」

「なにがヤバいんだ。別に五人で泊まるだけだろ。ヤバいことなんてなにもないだろ」


 帆波の言いたいことも分かる。


 例えどんなに仲が良かろうと、異性とお泊り会は普通しない。


 それは単純に異性だからだ。


 でもメアリーはどうしてヤバいのか分かっておらず、首を傾げている。


「高校生の男女が一緒に寝るなんて破廉恥です」

「日本では避難所とか安いフェリーでは雑魚寝が普通だし、別に破廉恥ではなかろう」


 男女一緒に寝ることが破廉恥だと思っている帆波は顔を真っ赤に染めている。

 確かにメアリーの言うとおり、避難所や安いフェリーでは男女で雑魚寝は普通にある。


 それにアニメや漫画、ライトノベルでも仲が良い男女で寝落ちして一緒に寝たりとか、文化祭催準備をして寝落ちして雑魚寝になったりする描写もあるからそこまで破廉恥ではないだろう。


「わ、私も五人でお泊り会をしたい。絶対楽しいもん」

「わ、私も。雑魚寝ぐらいだったら別に平気」


 寝るのは一緒だがお風呂や着替えは別だし、それならなんの問題もないだろう。

 だから静香はメアリーの提案に賛成し、女の子の月も雑魚寝ぐらいなら問題ないらしく、月も賛成する。


「帆波~。月やメアリーを意識しすぎ~」

「……確かに状況によっては男女で雑魚寝はあり得ますね。分かりました。みんな良いっていうなら私も賛成です。私もみんなとお泊りしてみたいですし。それと天音、別に私はそこまで意識してません」


 メアリーと月を女性として意識している帆波は天音に図星を突かれる。


 図星を突かれた帆波は無理矢理自分自身を納得させ、お泊り会に賛成する。


 帆波は意識していないと主張しているが、帆波の動揺っぷりを見ているとそれが嘘だと誰もが分かる。


 それぐらい分かりやすいぐらい動揺していた。


 その後、お泊り会は今週の金曜日、メアリーの部屋ですることに決定した。


 前回は男の娘三人のお泊り会から今度は男女混合五人でのお泊り会だ。


 静香はこの五人でお泊り会できることに、内心ワクワクとソワソワしていた。

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